わかりやすい経済学 – 古典経済学から近代経済学まで10分でざっくり解説

「経済学」と聞くと、多くの人が漠然としたイメージを抱いていることかと思います。

なんとなく「お金」や「景気」について研究する学問なのかな?とイメージはありますが、どのような学問なのか明確に理解するのは非常に難しいです。

このように「経済学」が曖昧なのは、歴史とともに、そして社会が変化するたびに、その考え方を変えてきていることに原因があります。

この記事では、経済学が辿ってきた歴史的発展を紐解きながら、その全容を「ざっくり」と掴めるように解説していきます。

経済学の存在意義は?

そもそも経済学は「何のための学問」なのでしょうか。

それは「社会の資源の最適な分配」を考え「全体として豊かになる」ためにどうすれば良いか考える学問だと言えます。

経済学の研究対象
「社会の資源の最適な分配」を考え「全体として豊かになる」ためにどうすれば良いか考える学問

古典経済学から近代経済学まで一貫して、貫かれているテーマがあります。それは「資源の分配」についてです。

例えば、アダム・スミスは「見えざる手」のよって需要と供給が最適につりあうには、どうすれば良いか研究しています。そして、このテーマは現在まで一貫しています。

経済学は「お金持ちになるための学問」と考えがちですが、決してそうではありません。ちなみに、経済学者の多くは経済的に非常に苦しんでいる人が多いんですね。

古典経済学の始まり

「adamsmith」の画像検索結果

古典経済学は「アダム・スミス」によって始まりました。アダム・スミスは経済学の父とも呼ばれています。

彼が書いた「国富論」はあの有名な「見えざる手」という言葉が記載されている本です。

5分でわかるアダム・スミスの国富論(諸国民の富)- わかりやすく要約

アダム・スミスの考え方は、簡単にいうと、人々は「利己的に」「自分勝手に」生産と消費をしているけれど、最適な価格に「見えざる手」によって調整されるのだと説きました。

例えば、近所の果物屋さんが「りんご」を200円で売っていたとします。しかし、それでは全然売れなかった。よくよく調べてみると、隣町の果物屋さんでは同じ「りんご」を180円で売っていた。これではよくないと考えて、慌てて150円にしました。めでたく売ることができたとします。

この八百屋さんは、果たしてお客さんのことを考えて、お客さんのために値下げを行ったのでしょうか?

違います。果物屋さんは「りんご」が売れないと利益が出ないから安売りしただけです。つまり自分が稼ぎたいから利己心によって値段を下げたわけです。

つまり、モノの値段も利己心によって、自然と決まっていくはずだと考えたわけです。

リカードの比較優位:貿易の諸原則

「リカード」の画像検索結果

古典経済学を語る上で、もう一人外せない人物は「リカード」です。彼の「比較優位」の考え方は、現在もビジネス書で引用されるほどの基礎的な考え方です。

リカードの比較生産費説(比較優位)

比較生産費説とは、それぞれの国が他国と比較して得意な生産物に特化して生産して、貿易を行った方が豊かになるという考え方です。

例えばイギリスでは布を労働者100人で200生産できる一方で、ワインは100しか生産できない。スペインは布は50しか生産できないけれど、ワインは90生産できるとします。

イギリスは布もワインも両方スペインより生産量が多いのです。これを絶対優位と言います。

比較優位とは、比較的優位なものに特化すると全体として豊かになるという考えです。スペインはイギリスと比較して、布生産は勝ち目がないけれど、ワインであればそれなりに太刀打ちできそうです。スペインはワインに絞って生産しました。

お互いが得意な生産物に絞った結果、全体として140も生産が多くなっています。まるで数字のマジックのようですが、得意なものを作って貿易したら全体として豊かになるとリカードは説きました。

比較優位の考え方ばかり、注目されるリカードですが、比較優位以外にも経済学にとって基礎となる部分の多くを提唱した人物でした。下記のリンクで詳しく解説しています。

10分で分かるリカードの経済学および課税の原理 | わかりやすく解説

マルクスの資本論:資本主義社会の限界を解く

「マルクス」の画像検索結果

古典派経済学は、「個人」や「個企業」など小さな単位の行動に注目した学問でした。とりわけ市場に任せておけば価格は自動で調整されるという考えのため、極端に言えば「自由放任」にしておけば良いという考え方でした。

そのような中で、マルクスは、市場に任せておいては格差が広がり、やがて社会が崩壊すると説きました。

10分でわかるマルクスの「資本論」入門。初心者にも分かりやすく要約・解説します。

現代でもピケティが「21世紀の資本」と呼ばれる格差論を展開しベストセラーとなりましたが、このような資本主義の問題をマルクスは予言していたのではないか?として再度「資本論」を見直す動きがあります。

【入門】10分でわかるピケティの21世紀の資本-わかりやすくグラフで要約-

古典派経済学から新古典派経済学へ

古典派経済学は、現在の経済学とは程遠い思想的な考え方の寄せ集めのようなものでした。マーシャルはそのような経済学を「暇つぶし」だと批判します。

彼は既存の経済学を「数学」を用いて体系化し、実体経済に適用できる「使える経済学」へと押し上げました。彼以降の経済学は「新古典派経済学」として大きな発展を遂げました。

彼の大きな功績は、価格の決定メカニズムを解明したことです。我々がミクロ経済学で習う需要曲線と供給曲線が交わる点で価格が決定するという「一般均衡理論」を初めて説明しました。長らくマーシャルの経済学原理という著書は大学の教科書として用いられました。マーシャルについて詳しくは下記のリンクで解説しています。

5分でわかるマーシャルの経済学原理 | 新古典派経済学の始まり

古典派経済学と新古典派経済学の大きな違いは、商品価格の決定についての考え方です。

古典派経済学では、商品は投下した労働によって決まると考えていましたが、新古典派以降では商品を購入した際に得られる満足度(効用)によって決まると考えました。これを「限界革命」と呼び、経済学は大きな飛躍を遂げることになります。

ミクロ経済学の登場:新古典派以降の発展

マーシャルが基礎を築いた新古典派経済学は、ミクロ経済学として発展を遂げます。ミクロ経済学は、消費者、生産者の希少な資源の最適な分配について研究する学問です。

少し難しい言い方ですが、我々個人は、お金をどのように使うのが最適なのか?また企業は、製品をどの程度作り供給すれば最適なのか?を研究する学問だということです。

つまり、「需要曲線と供給曲線が交わる点が最適価格である」というアダム・スミスの見えざる手が基礎となる理論を、より詳細に分析し解明していこうという学問です。

経済学を勉強した方は、必ず見たことがある上記の「需要曲線」と「供給曲線」ですが、そもそもこの曲線はアダム・スミスが唱えた「価格が見えざる手によって自動で調整される」ことを論理的に説明しています。

需要曲線と供給曲線が交わる点が、均衡価格となるよう、調整されるという「市場の価格の自動調整機能」を説明しました。

ちなみにミクロ経済学の需要曲線と供給曲線の導出方法については下記のリンクで詳しく解説しています。

10分でわかるミクロ経済学 – 需要曲線や供給曲線をわかりやすく解説







ケインズ経済学:よりマクロに経済を動かすには

「ケインズ」の画像検索結果

マルクスは「資本主義」は格差を生み社会が崩壊すると説きましたが、一方で、ケインズは「資本主義」においても、政府が積極的に経済に介入することで、持続可能であると説きました。(ちなみにケインズは新古典派経済学を築いた「マーシャル」の教え子です)

つまり国は、不景気の時は積極的に借金をして、公共事業に支出し、雇用を生み出します。雇用が生まれれば、国民の給与が上がりますから、税収入が増えます。その増えた税収入で借金を返せばいいと考えました。

エジプトのピラミッドは、国王の墓ではなく景気対策だったとの説が近年有力になってきました。ピラミットを公共事業として行うことで国民の仕事が増え、消費が促され、税収入を増やす。ケインズは、ピラミッドと同じように、不景気の時は、国が借金をしてでも公共事業を増やして、国民の所得を増やすべきだと考えた革命的な人物でした。

MEMO
政府がお金を発行していると勘違いしがちですが、国は中央銀行からお金を借金しています。中央銀行の仕組みについて知りたい方は下記のリンクで解説しています。
10分で分かる中央銀行の仕組み。中央銀行と紙幣の歴史

マクロ経済学の登場:ケインズ経済学の体系化

ケインズの主張を「マクロ経済学」として体系化していきました。マクロ経済学では消費者個人ではなく、より大きな3つの市場を分析する学問です。1つが「財市場」、2つ目が「貨幣市場」、3つ目が「労働市場」です。

マクロ経済学が扱う3つの市場
  1. 財市場:主にGDPを対象とする。生産、消費、分配がどのように行われるのかを考える
  2. 貨幣市場:貨幣や債券の流通に関して考える
  3. 労働市場:労働の需給について考える

GDPという考え方は、マクロ経済学から生まれています。国全体としてどれだけ生産が行われているのかという、より大きな市場に研究対象が移っていきました。

マクロ経済学について詳しく知りたい方は下記のリンクで詳しく解説しています。

10分でわかるマクロ経済学 – 財市場、貨幣市場、労働市場をわかりやすく解説

新自由主義経済の台頭:ハイエクとフリードマン

「フリードリヒ ハイエク」の画像検索結果

不況を乗り越えるための学問としてケインズ的なマクロ経済学が主流となりました。いわば「大きな政府」が積極的に借金をして、公共支出を増やし、市場に介入することによって経済を刺激する方法です。

しかし、このやり方に対して異議を唱え続ける立場の人がいました。オーストリア学派やシカゴ学派などとして知られる経済学の立場の人です。

10分でわかるオーストリア学派の経済学 | 初心者にもわかりやすく解説

彼らの考え方の根本にあるのは、政府が市場に介入することによって、「自由」が奪われているという哲学です。政府はあまり介入せずに「自由競争」に任せることが、人々の自由を拡大することができると考えます。

代表的な人物で、最も大きな影響を与えた人物の一人として「フリードリヒ・ハイエク」と呼ばれる人物が存在します。彼の著書「隷属への道」は、「社会主義」を批判し、「自由主義」の利点を述べる名著です。

5分でわかるハイエクの「隷属への道」要約。ケインズ思想との違い

20世紀のアメリカ政策に影響を与えたフリードマン

この自由主義の考え方は、20世紀のアメリカの政策に大きな影響を与えることになるのですが、そのきっかけを作った人物が「フリードマン」です。彼はノーベル経済学賞を「資本主義と自由」という著書で受賞することとなります。

彼の考え方は、かなり極端な思想も含まれます。

例えば、「医師免許」ですら廃止すべきだと主張しています。日本では医師免許をもったい人のみ医療行為ができますが、フリードマンはそのような制度すらやめて市場に任せればいいと言っています。

つまり、医師免許など持っていなくても、医療行為が下手な人には人が集まらずに倒産してしまいます。逆に医者として神の手を持つような人は人気が集まります。そうやって市場に任せてしまえば免許などいらないとフリードマンは考えました。

[kanre id =2502]

ゲーム理論:より複雑な意思決定の分析

ミクロ経済学では、人は「必ず合理的に意思決定ができる」という前提があります。

つまり、人はどの商品を購入するのか決定する際に、必ず効用を最大化する意思決定ができるという前提があります。

合理的経済人 仮説
人は必ず効用(満足度)を最大化する意思決定ができる。

例えば、「赤く熟したリンゴ」と、「青い熟していないリンゴ」があった場合、必ず赤いリンゴを選びます。しかし、世の中の意思決定はここまで単純ではありません。より複雑な状況に直面した際には、近代経済学では説明ができないものがあります。

そのような複雑な意思決定を「ゲーム理論」によって分析を行いました。ゲーム理論の代表例として囚人のジレンマがあります。

囚人のジレンマとは、ある犯罪で捕まった容疑者2人が意思疎通のできない別の部屋で尋問される状況を考えます。

この2人が取れる選択肢は

  • 自白する
  • 黙秘する

の2つのみです。この2つの選択によって2人が受ける罰が異なります。

  • 1人が自白して、もう1人が黙秘の場合
    自白した人は無罪で、黙秘した人は懲役10
  • 2人とも黙秘した場合
    お互いに懲役2
  • 両方とも自白した場合 
    お互いに懲役5

この場合、2人の容疑者はどのような選択を取るのでしょうか?  全体でもっとも刑が軽くなるのは、2人とも黙秘した場合の「お互い2年の懲役」です。しかし、自分の利益を優先して、自白するを選んだ場合は、「お互い懲役5年」となります。

このような状況下で人は効用を最大化する意思決定ができるのでしょうか? 詳しくは下記のリンクで解説していますが、このような複雑な状況が世の中に溢れているのではないか?として近代経済学の限界がささやかれ始めます。

10分でわかる「ゲーム理論」入門 – ナッシュ均衡やパレート最適についても解説

行動経済学:人は非合理な決定をしている

最近発展してきた経済学の考え方として「行動経済学」があります。

行動経済学では、人間は多くの「非合理」な意思決定を繰り返していると説明します。例えば下記のような例が挙げられます。

あなたは、鰻屋さんに行きました。メニューは下の通りです。

並 1500
上 2000

あなたはどれを選びますか?多くの人は予算に合わせて「並」を選択するでしょう。

しかしもしメニューがこのような形ならどうでしょうか?

並 1500
上 2000
特上 3000

前よりも圧倒的に「上」を選ぶ人が多くなります。これは実験によっても証明されています。

人々は「合理的に」選択していると思っていても、その多くが「そうではない」場合が多いのです。下記の記事では行動経済学の事例を多く解説しています。

10分でわかるセイラーの「行動経済学」入門。書籍「ナッジ」の具体例をわかりやすく解説

まとめ

経済学の主要な考え方の発展の歴史をざっくりと振り返りました。

経済学はご覧の通り、考え方が大きく変化するだけでなく、「説明できない経済活動」に対しては、全く別な考えを付け加えています。

古典経済学から近代経済学までの大きな流れとして「合理的な経済人」を前提として理論化されました。しかし、それだけでは説明できない多くの経済活動に対しても、分析できるように新たにな理論(ゲーム理論や行動経済学)が発展してきています。

しかし、古典経済学や近代経済学が全く役に立たないかというと、そうではありません。分析する際には物事を単純化した方が分析しやすいことも多々あります。様々な考え方を理解した上で、多角的に経済活動を分析する多眼視点がこれからは重要になってくるのではないかと思います。

1 COMMENT

ina

経済学に興味を持ち始めた初学者です。非常にわかりやすくてためになりました。ありがとうございます。

返信する

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください