マルサスはイングランドのサリー州ウットン出身の経済学者で、「経済学原理」や「人口論」といった著書で知られています。
この記事では、マルサスの「人口論」を10分でわかりやすく解説します。また、マルサス経済学に対する批判についても触れていきます。
なお、経済学とはそもそも何か、どのように発展してきたのかについては、下記の記事で概観していますので、あわせて読むとマルサス経済学の位置づけがより明確になります。
トーマス・ロバート・マルサスとは?
![]()
マルサスは、18〜19世紀初頭に活躍したイングランドの経済学者の一人です。
彼はアダム・スミスの流れを汲む古典派経済学者であると同時に、「牧師」かつ「人口学者」でもありました。アダム・スミスについては下記で解説しています。
彼の代表作が「人口論」です。厳密には純粋な経済学書とは言い難い側面もありますが、マルサスの思想を理解する上で欠かせない重要な著作であり、多くの示唆を与えてくれます。
「人口論」で伝えたかったことは?
「人口論」で彼が主張したのは、「人口が増え続ければ、やがて食糧不足に陥る」という点です。
一見すると当たり前に思えるかもしれませんが、当時としては非常に革新的な主張でした。
この本が出版された時代のイギリスは産業革命の真っ只中であり、人口増加とともに賃金も上昇し、人々の生活は急速に豊かになっていました。

そのような状況では、人口増加はむしろ国を豊かにする要因だと考えられており、人口増加を問題視する発想自体が珍しかったのです。
人口が増えても食べ物がない
マルサスは、人口の増加に対して食料生産が追いつかず、結果として食糧不足が起こると考えました。
彼の理論の核心は、人口はかけ算(幾何級数)で増えるのに対し、食料は足し算(算術級数)でしか増えないという点にあります。
この理論は、次の2つの前提に基づいています。
- 食料は人間の生存に不可欠である
- 男女間の性欲は将来にわたって維持される
つまり、人口は欲望が維持される限り等比級数的に増加しますが、食料は等差級数的にしか増えないということです。

この考えに違和感を持つ方もいるかもしれませんが、彼が牧師であったことを考えると理解しやすい側面もあります。
マルサスは、欲望を抑制することで人口をコントロールすべきだと考えていました。
人口の抑制は「貧困と悪徳」で実現する
マルサスは、人口は常に食料よりも速いペースで増加すると考えました。その結果、人口は最終的に「養える水準まで抑制される」としました。

この抑制は、自然界では「病気・飢餓・早死に」によって起こり、人間社会では「貧困と悪徳」によって起こるとしました。

つまり、人口過剰は貧困や犯罪の増加を引き起こし、その結果として人口が減少するというメカニズムです。
「救貧法」を否定する
当時のイギリスには「救貧法」と呼ばれる制度がありました。
これは、貧困層に対して国が金銭を支給し、生活を支援する制度です。
しかしマルサスは、この制度を強く批判しました。
理由は、支給されたお金によって食料需要が増え、結果として食料価格が上昇するためです。その結果、実質賃金が低下し、働いている人々まで生活が苦しくなると考えました。
つまり彼は、救貧政策はむしろ社会全体にとってマイナスになると主張したのです。
農業の推奨
マルサスは救貧法を否定する一方で、農業への支援を重視しました。
国の発展は以下の順序で進むべきだと考えました。
「農業の発展」→「製造業の発展」→「外国貿易」
しかし産業革命期のイギリスでは、この順序が逆転しており、まず製造業が発展し、その後に農業が拡張される形になっていました。
そのためマルサスは、農業を優先的に支援すべきだと主張しました。
マルサスの罠
人口増加が食料供給を上回り続けるというこの理論は、現在では「マルサスの罠」と呼ばれ、一般的には否定されています。
当時は土地という制約がありましたが、その後の技術革新によって状況は大きく変わりました。
特にエネルギー革命と輸送技術の発展により、食料生産は飛躍的に拡大し、人口増加と食料供給は同時に進むことが可能になりました。
とはいえ、当時の前提条件を考えれば、マルサスの理論は十分に合理的なものであったと言えます。
まとめ
マルサスの「人口論」は、産業革命期の人口問題に対する重要な問題提起でした。
ただしその解決策は、禁欲や抑制といった方向性に依存していました。
一方で現代社会は、技術革新によってこの問題を乗り越えてきました。
このことは、経済や社会が発展する原動力が、人間の欲望や探究心にあることを示唆しているのかもしれません。


