ミクロ経済学とは、モノの価格がどのように決まるのかを考える学問です。
なぜ人気の商品は高くなり、売れ残った商品は安くなるのでしょうか。
その仕組みを、消費者の「買いたい量(需要)」と、企業の「売りたい量(供給)」から考えるのがミクロ経済学です。
需要曲線と供給曲線は、この価格の決まり方を説明するための基本的な考え方です。
この記事では、ミクロ経済学の基礎を初心者向けにわかりやすく解説します。経済学の前提知識は必要ありません。
なお、経済全体を扱うマクロ経済学については、下記の記事で解説しています。
経済学全体をざっくり理解したい方は、下記の記事もおすすめです。経済学を俯瞰することで、この記事の理解も深まります。
ミクロ経済学の概略
ミクロ経済学は、限られた資源をどう配分すれば最も効率的かを考える学問です。
消費者なら「何を買うべきか」、企業なら「どれだけ生産すべきか」を考えます。
その結果、需要と供給が一致するところで価格が決まる、という考え方につながります。
需要曲線と供給曲線が交わる点が均衡価格であり、この価格の仕組みを理論化したものがミクロ経済学です。

この考え方を体系化した代表的な人物がアルフレッド・マーシャルです。彼は需要と供給による価格決定を整理し、現代ミクロ経済学の基礎を築きました。
消費者理論:需要曲線はなぜ右下がりなのか
消費者理論では、需要曲線がなぜ右下がりになるのかを考えます。
需要曲線とは、価格が下がると需要量が増え、価格が上がると需要量が減ることを表した曲線です。
なぜそうなるのでしょうか。
感覚的には、安ければ多く買い、高ければ買う量が減るからです。
ミクロ経済学では、この理由を「効用(満足度)」という考え方で説明します。
効用関数
効用とは、商品を消費したときに得られる満足度のことです。
効用関数は、「消費量(x)」と「効用(U)=満足度」の関係を表したものです。

このグラフから分かるのは、次の2点です。
- 消費量が増えると、効用は増える
- ただし、効用の増え方は徐々に小さくなる
たとえば、ゲームを1本持っている人にとって2本目の価値は大きいですが、100本持っている人にとって101本目の価値はそれほど大きくありません。
追加で消費するほど、得られる満足は小さくなりやすいのです。
限界効用
効用関数の傾きを、限界効用といいます。
限界効用とは、商品を1単位追加したときに得られる満足の増分です。
言い換えると、「もう1つ買ったとき、どれだけうれしさが増えるか」を表しています。

限界効用逓減の法則
消費量が増えるほど、限界効用は小さくなっていきます。
これを、限界効用逓減の法則といいます。
たとえば、カバンを1個しか持っていない人にとって2個目の価値は大きいですが、すでにたくさん持っている人にとって、さらに1個増える価値はそれほど大きくありません。
追加で得られる満足は、次第に小さくなっていく。これが限界効用逓減です。

無差別曲線
ここまでは1種類の財だけを考えてきましたが、実際には複数の商品を組み合わせて選びます。
その関係を表すのが、無差別曲線です。
無差別曲線とは、同じ満足度をもたらす商品の組み合わせを結んだ線です。

たとえば、次の2つで満足度が同じだとします。
- 財Xを1個、財Yを2個
- 財Xを2個、財Yを1個
この2つは、同じ無差別曲線上にあります。
つまり、組み合わせは違っても、満足度が同じなら同じ線の上に乗るという考え方です。
限界代替率(MRS)
無差別曲線の傾きは、限界代替率(MRS)と呼ばれます。
限界代替率とは、ある財を1単位増やす代わりに、もう一方の財をどれだけ減らしても満足度が変わらないかを表す考え方です。
言い換えると、「どこまで代わりにできるか」を示しています。

たとえば、ワインとビールを考えてみます。ビールを1本増やす代わりに、ワインを少し減らしても満足度が変わらないなら、その交換の割合が限界代替率です。
無差別曲線の傾きは、この交換比率を表しています。
限界代替率逓減の法則
一方の財を増やしていくと、もう一方の財で代替できる余地は次第に小さくなります。
これを、限界代替率逓減の法則といいます。

たとえば、ワインとビールを考えると、最初はワインを減らしてビールを増やしても、満足度はあまり変わらないかもしれません。
しかしビールばかり増えてくると、さらにワインを減らして代替するのは難しくなります。つまり、代替できる割合は次第に小さくなる、という考え方です。
予算制約線
実際の消費には予算の制約があります。無限に商品を買えるわけではなく、限られた予算の中で選ばなければなりません。
その制約を表したのが、予算制約線です。
予算を M、財Xの価格を Px、財Yの価格を Py とすると、
- x軸の切片は M/Px
- y軸の切片は M/Py
になります。

予算制約線に無差別曲線を重ねると、次のようになります。

予算制約線と無差別曲線が接する点が、効用を最大にする消費の組み合わせです。
この点を最適消費点といいます。そして、このとき効用最大化の条件は、価格比 = 限界代替率です。
つまり、値段のバランスと、自分が感じる満足のバランスが一致したところが、最も合理的な選択になるということです。
たとえばワインがビールの2倍高いなら、消費者も「ワイン1本はビール2本分の価値がある」と感じているとき、ちょうど最適になります。
需要曲線の導出
商品の価格が変わると、予算制約線の傾きや位置も変わります。
たとえば財Xの価格が上がると、同じ予算で買える財Xの量は減るため、予算制約線は左にずれます。すると最適消費点も変わります。

このように、価格が変わるたびに最適消費点も変化します。
そのときの価格と消費量の関係を取り出したものが、需要曲線です。つまり、需要曲線は「価格が変わったとき、消費者がどれだけ買うか」を表した曲線なのです。
消費者理論まとめ
ここまでの消費者理論をまとめると、次の通りです。
- 効用関数は、消費量と満足度の関係を表す
- 無差別曲線は、財の組み合わせと満足度の関係を表す
- 予算制約線は、予算の範囲内で選べる組み合わせを表す
- 無差別曲線と予算制約線の接点が最適消費点になる
- 価格が変わると最適消費点が動き、その変化が需要曲線になる
要するに、消費者理論は「人は限られた予算の中で、最も満足できる組み合わせを選ぶ」と考える理論です。
生産者理論:供給曲線はなぜ右上がりなのか
ここまでは消費者の行動を見てきましたが、次は生産者の行動を考えます。
生産者理論では、供給曲線がなぜ右上がりになるのかを説明します。
価格が高ければ、生産者はより多く作って売ろうとします。
逆に価格が安ければ、利益が出にくいため、生産量は減ります。
こうした仕組みを理論的に説明するのが、生産者理論です。

総費用曲線
総費用曲線は、生産量と総費用の関係を表した曲線です。
一般に、総費用曲線は逆S字カーブになります。

その理由は、生産の初期には設備や準備にコストがかかる一方、ある程度生産が軌道に乗ると効率が上がり、費用の増え方が緩やかになるためです。
ただし、生産をさらに拡大すると、設備の限界や管理コストの増加によって、再び費用が増えやすくなります。
つまり、初期はコストが重く、その後は効率化し、最後は限界で再びコストが増える。
これが逆S字になる理由です。
たとえばラーメン屋でも、最初は設備費などの固定費(FC)がかかります。
その後は効率よく営業できますが、さらに人員や店舗を増やせば、今度は可変費用(VC)が増えていきます。
限界費用(MC)
限界費用(MC)とは、生産を1単位増やしたときに追加でかかる費用のことです。
たとえば商品をもう1個作るのに、追加でいくらコストがかかるかを表しています。
総費用曲線で見ると、その傾きが限界費用になります。

考え方は、消費者理論の「限界効用」と同じです。
利潤最大化の条件
完全競争市場では、生産者は価格を自分で決められません。
市場で決まった価格を受け入れるだけの存在を、プライステーカーといいます。
このとき、利潤を最大化する条件はP=MCです。
つまり、価格と限界費用が一致するところが、最適な生産量になります。なぜなら、価格より限界費用が低いうちは、追加で生産するほど利益が増えるからです。
たとえば、食パンを1斤追加で作るのに10円しかかからず、市場価格が100円なら、生産を増やした方が得です。
しかし追加生産のコストが100円になれば、それ以上作っても利益は増えません。
その境目が、P=MC になる点です。


損益分岐点と操業停止点
次に、生産者がどこで利益ゼロになり、どこで生産をやめるのかを考えます。
その判断の基準になるのが、損益分岐点と操業停止点です。
前に見たように、総費用曲線は逆S字になります。その傾きである限界費用(MC)も、最初は下がり、途中から上がる形になります。
この限界費用をもとに、企業は生産を続けるべきかどうかを判断します。

平均費用と平均可変費用
平均費用(AC)は、1単位あたりにかかる費用です。
固定費が分散されるため、最初は下がりますが、生産を増やしすぎると効率低下によって再び上がります。
平均可変費用(AVC)は、固定費を除いた費用です。原材料費や人件費など、生産を増やすと増えるコストだけを見たものです。

損益分岐点
限界費用(MC)と平均費用(AC)が交わる点が、損益分岐点です。
この点では、価格と平均費用が等しくなり、利益はゼロになります。つまり、赤字でも黒字でもない境目です。


操業停止点
限界費用(MC)と平均可変費用(AVC)が交わる点が、操業停止点です。
価格がAVCを下回ると、商品を作るたびに、原材料費や人件費すら回収できません。その場合、生産を続けるほど赤字が広がるため、生産をやめた方が合理的になります。

供給曲線の導出
ここまでくると、供給曲線を導くことができます。
供給曲線とは、価格と生産量の関係を表した曲線です。完全競争市場では、生産者は価格に応じて、P=MCとなる生産量を選びます。そのため、価格ごとの最適生産量を結ぶと、限界費用曲線が供給曲線になります。
ただし、操業停止点より低い価格では生産しません。そのため、実際の供給曲線は、操業停止点より上の限界費用曲線で表されます。

生産者理論まとめ
ここまでの生産者理論をまとめると、次の通りです。
- 総費用曲線は一般に逆S字を描く
- その傾きが限界費用(MC)である
- P=MC のとき利潤が最大化する
- MCとACの交点が損益分岐点である
- MCとAVCの交点が操業停止点である
- 操業停止点より上の限界費用曲線が供給曲線になる
要するに、生産者理論は「企業は利益が最大になるよう生産量を決める」と考える理論です。
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まとめ
この記事では、ミクロ経済学の基礎として、消費者理論と生産者理論を解説しました。
消費者理論では、需要曲線がなぜ右下がりになるのかを説明し、生産者理論では、供給曲線がなぜ右上がりになるのかを説明しました。
この2つはミクロ経済学の土台であり、近代経済学の多くはこの考え方の上に築かれています。
一方で、ミクロ経済学は「人は常に合理的に行動する」という前提に立っています。現代では、この前提を見直す形で行動経済学も発展しています。
また、ミクロ経済学やマクロ経済学とは異なる視点として、マルクスの『資本論』もあります。最近あらためて注目されている考え方です。




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