5分でわかるアダム・スミスの国富論(諸国民の富)- わかりやすく要約

この記事では、アダム・スミスの名著「国富論」について、初心者向けに5分で分かりやすく解説します。

国富論は、「ミクロ経済学」「マクロ経済学」の基礎となっています。古い本ですが改めて読み返すと、新たな発見や、新鮮さがあると思います。

10分でわかるミクロ経済学 – 需要曲線や供給曲線をわかりやすく解説10分でわかるマクロ経済学 – 財市場、貨幣市場、労働市場をわかりやすく解説

経済学全体についてざっくりと理解したい方は下記のリンクで解説しています。経済学を俯瞰することで、よりこの記事の理解が深まります。

わかりやすい経済学 – 古典経済学から近代経済学まで10分でざっくり解説

アダム・スミスとは?

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アダム・スミスは、1723年にスコットランドで生まれました。当時のスコットランドは、イングランドに併合されてイギリスの一部となっていました。

私たち日本人は、イギリスは一つのまとまった国だと思いがちですが、スコットランド人からしたら無理やりイギリスに併合されたという意識が強いんです。

そのような環境の中で、アダム・スミスはロンドンで学び、その後スコットランドの名門「グラスゴー大学」で経済学ではなく「道徳哲学」の先生をしていました。道徳哲学の先生をしていたアダム・スミスが、最初に発表したのは「道徳感情論」という本でした。この本は非常に評判で、後の「国富論」に繋がっていきます。

道徳感情論:最初の書籍

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「道徳感情論」は、人間の同感という感情に注目しています。

アダム・スミスは、人間はみんな「自分のことだけ」を考えて利己的に行動しているけれど、なぜ社会秩序が保たれているのだろうと考えました。もしみんなが本当に利己的に生きていたら、窃盗や暴力が横行してしまいます。しかし、今の世の中がそうではないのは、人間には同感という感情が備わっているからではないかと結論づけました。

同感とは、社会的に認められるか?共感できるか?ということです。「この程度だったら大丈夫だろう」「この程度なら許してくれるだろう」という感情によって、社会はまとまっているのだと考えました。

同感とは?
社会的に人々が認めるかどうか。「同感」という感情によって、我々は利己的に行動はしているけれども社会はまとまっている

この「道徳感情論」は「国富論」の基礎となっています。つまり、人間は「利己的」に、物を作ったり、物を買ったりしているはずなのに、なぜ社会がまとまっているのか?を考えることから、彼の経済研究がスタートしました。

下記のリンクで「道徳感情論」について詳しくまとめています。

5分でわかるアダム・スミスの「道徳感情論」要約。国富論へとつながる考え方

国富論:諸国民の富

彼は「道徳感情論」の後に、「国富論」を発表しました。日本語訳の別名は「諸国民の富」です。

実は英語名の表記は非常に長く「An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations」です。直訳すると「諸国民の富の性質と諸原因についての一研究」となります。

つまり世の中にある富とは何なのか?その富はどのようにして増えていくのか?その研究をしてみようという書籍でした。

ちなみに「富」と言われると曖昧な概念に感じますが「豊かさ」だと思えばイメージできると思います。「国の豊かさって何だろう」「国はどうやったら豊かになるのだろう」とアダム・スミスは考えたんですね。

社会の富とは何か?

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アダム・スミスは、富の研究から始めました。アダム・スミスは「富」を下記の通り定義しました

アダム・スミスの定義する富
富とは国民の労働で生産される必需品と便益品

ここでいう必需品とは、生活必需品のことです。食べ物や衣服や住居がなければ人は生活することができません。いわば衣食住に関わる商品のことです。

便益品とは、やや贅沢をする商品のことです。例えば書籍だったり鉛筆だったりをイメージしていただければと思います。

そのような「生活必需品や便益品」 = 「消費財」が社会の富だと考えました。

重商主義を批判

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アダム・スミスが「国富論」を執筆した当時は、国の豊かさは、どれだけ「金・銀・貴金属」を持っているかどうかだったのです。

つまり、国内で製品を作って外国に輸出して「金・銀・貴金属」を獲得することが国を豊かにするけれども、外国から小麦を輸入して「金・銀・貴金属」で支払いをしたら国が貧しくなるという考え方です。

重商主義とは
国内の「金・銀・貴金属」の量が国の豊かさである。輸出によって国は豊かになり、輸入によって国が貧しくなるという考え方

しかし、アダム・スミスは、この「重商主義」の考えを否定しました。

普通に考えれば、重商主義は馬鹿げた考え方に見えますが、現代でも重商主義的な考え方をしてしまうことがあります。例えば、貿易赤字や黒字という考え方がありますね。貿易黒字だと良い、つまりたくさん外国に輸出してお金がたくさん入ってくる。これが国民を豊かにするのだと考えがちです。


アダム・スミスは歴史上初めて、重商主義を否定して、自由貿易を推奨したと考えられがちですが、それより先に重商主義を否定していた人が存在します。それは、フランスのフランソワ・ケネーです。アダム・スミスはイギリスですが、フランスでいち早く同様のコンセプト提唱されていたと言えます。詳しくは下記のリンクで解説しています。

5分でわかるフランソワ・ケネーの「経済表」 – わかりやすく解説

輸出奨励金制度は国を貧しくする

またアダム・スミスは「輸出奨励金制度」は国を貧しくすると批判しています。

輸出奨励金制度とは、特定の輸出品に国が補助金を出して、輸出しやすくする制度のことです。アダム・スミスは、海外で売れないような競争力が弱い商品に、補助金を出してしまうことになるので、富の無駄遣いだと考えました。

より良い商品を作ろうと努力しなくても、海外で売れてしまうわけですから、どんどん競争力が失われていくわけです。結果的には国の富を減らして貧しくなると「輸出奨励金制度」を批判しました。

ちなみに、海外貿易や自由貿易について、より発展させた次の時代の人物に「リカード」が存在します。彼の「比較優位」という考え方は自由貿易の考え方の基礎となっています。

10分で分かるリカードの経済学および課税の原理 | わかりやすく解説

分業することで生産性が高まる

アダム・スミスは、富を増やす方法は分業であると説明しました。

国富論の中で、針の製造を例に解説しています。例えば針を一人で作るには、針金を切って、穴を開けて、先を尖らせて、と作業していては丸一日かかります。しかし、「針金を切る人」「穴を開ける人」「先を尖らせる人」と分業して作れば、1日で多くの針を作ることができます。

今となっては当たり前の考え方ですが、「役割分担をして分業することによって生産性が高まる」ということは当時あまり理解されていませんでした。アダム・スミスはその事実にいち早く気がつき「分業こそが富を増やす方法」だと説きました。

分業は利己心によって成立する

では分業はどのように成立しているのでしょうか。

みんなが「さあ一緒に作りましょう」と息を合わせて協力して作っているわけではありません。「針を切る人」「穴を開ける人」「先を尖らせる人」全ての人が、利己的にお金を稼ごうとしているからです。

全員が自分のためにお金を増やそうとすると、結果的に分業が成立するとアダム・スミスは説きました。

彼の著書「道徳感情論」では人々が「利己的」に行動しているのに、社会がまとまっているのは「同感」という感情があるからだと説きました。国富論では、この考え方をさらに昇華して、利己心によって分業が生まれ生産性が高まっている、世の中が良くなっているのだと考えました。

モノの値段も利己心で成立する

「モノの値段」についても利己心で決まるのだとアダム・スミスは説明します。

例えば、近所の果物屋さんが「りんご」を200円で売っていたとします。しかし、それでは全然売れなかった。よくよく調べてみると、隣町の果物屋さんでは同じ「りんご」を180円で売っていた。これではよくないと考えて、慌てて150円にしました。めでたく売ることができたとします。

この八百屋さんは、果たしてお客さんのことを考えて、お客さんのために値下げを行ったのでしょうか?

それは違います。果物屋さんは「りんご」が売れないと利益が出ないから安売りしただけです。つまり自分が稼ぎたいという「利己心」によって値段を下げたわけです。つまり、モノの値段も利己心によって、自然と決まっていくはずだと考えたわけです。

見えざる手

アダム・スミスは、利己心によって個人が利益を追求していった結果、社会的分業体制になっていき、見えざる手によって価格が調整され社会がうまくいくと考えました。

「神の見えざる手」という言葉が有名ですが、アダム・スミスは「神の見えざる手」とは一言も言っていません。「見えざる手」という表現にとどまっています。

高校や大学で習う、需要と供給が一致することで価格が決まると「ミクロ経済学」で習ったかと思います。

まさに、この需要と供給によって価格が調整されることを、アダム・スミスは「見えざる手」と表現したんですね。ちなみに「見えざる手」はミクロ経済学によって数学的に論理的に説明されています。経済学の父と呼ばれている理由はこのためです。

10分でわかるミクロ経済学 – 需要曲線や供給曲線をわかりやすく解説

3つの国の役割

アダム・スミスは「自由放任にマーケットに任せれば良いのだ」と考えた人だと思われがちですが、実は異なります。

国は自由放任にするだけではなく、3つの役割を担うべきだと説明しました。一つが国防です。他国に攻め込まれてマーケットが破壊されては困ります。二つ目が司法行政です。犯罪が横行してマーケットが成立しなくなるからです。三つ目が公共施設の整備です。みんなが使う道路などは国が作るべきです。

担うべき国の役割
  1. 国防
  2. 司法行政
  3. 公共施設の整備

「国富論」をさらに深く学ぶには?

アダム・スミスの「国富論」をさらに理解したいならば、この上下巻セットがおすすめです。

値段は少し高いですが、何と言っても、この本は日本語訳が分かりやすく完璧です。多くの国富論の訳書は、ところどころ日本語訳が変だったり、難しすぎる言い回しをしていたりしますが、自然な文章で書かれています。

古典とはいえ現代に通じる考え方が満載の名著ですから、教養として読んでおいて損はありません。

まとめ

アダム・スミスの考え方は近代経済学の基礎となっています。皆さんご存知の「需要曲線」と「供給曲線」が交わったところに価格が収斂すると言う考え方がありますが、アダム・スミスの「見えざる手」をもとに理論が作られています。ミクロ経済学、マクロ経済学へと発展していきます。

アダム・スミスの考え方は、近年ノーベル経済学賞を受賞したフリードマンの「新自由主義」の考え方と近い部分があります。

5分でわかるフリードマンの「資本主義と自由」- 新自由主義をわかりやすく解説

かなり昔の書籍ですが、現代まで受け継がれる先進的な考え方だったのですね。なお、この考え方をもとに近代経済学が発展する一方で、その考え方を否定する考え方も生まれました。それはマルクスの資本論です。

10分でわかるマルクスの「資本論」入門。初心者にも分かりやすく要約・解説します。

経済学の考え方は、色々な考え方を行ったり来たりしながら発展を遂げてきて現在に至っているということです。正解のない学問なんです。

2 COMMENTS

numa56

失礼しました。ご指摘の通りとなります。こちら修正してアップロードしました。

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