アダム・スミスの国富論とは?見えざる手を初心者向けにわかりやすく解

この記事では、アダム・スミスの名著『国富論』について、初心者向けにわかりやすく解説します。

『国富論』は、「ミクロ経済学」や「マクロ経済学」の基礎につながる重要な古典です。古い本ですが、改めて読むと現代にも通じる発見があります。

ミクロ経済学とは?初心者向けにわかりやすく解説|需要曲線・供給曲線の基マクロ経済学とは?初心者向けに10分でわかりやすく解説|GDP・IS-LM分析・労働市場の基礎
経済学全体についてざっくり理解したい方は、下記の記事もおすすめです。経済学を俯瞰することで、この記事の理解も深まります。

経済学とは何か?歴史をわかりやすく解説| 古典経済学から近代経済学まで

アダム・スミスとは?

アダム・スミス

アダム・スミスは、1723年にスコットランドで生まれた経済思想家です。当時のスコットランドはすでにイングランドと統合され、イギリスの一部となっていました。

私たち日本人は、イギリスを一つのまとまった国だと捉えがちですが、スコットランドには独自の歴史や意識があります。

アダム・スミスはロンドンで学んだ後、スコットランドの名門グラスゴー大学で、経済学ではなく「道徳哲学」を教えていました。この道徳哲学の研究が、のちの『国富論』へとつながっていきます。

彼が最初に発表した本は「道徳感情論」でした。この本が高く評価され、その後の『国富論』へと発展していきます。

道徳感情論:最初の書籍

道徳感情論

『道徳感情論』では、人間の同感という感情に注目しています。

アダム・スミスは、人間は基本的に利己的に行動しているのに、なぜ社会秩序が保たれているのかを考えました。もし本当に自分のことだけを考えて生きているなら、窃盗や暴力がもっと広がっていてもおかしくありません。

しかし現実にはそうなっていないのは、人間に同感という感情があるからだと考えました。

同感とは、社会的に認められるか、他人が共感できるかという感覚です。「この程度なら許されるだろう」「これはやりすぎだろう」という感覚があるからこそ、利己的な人間同士でも社会はある程度まとまると考えたのです。

同感とは?
社会的に人々が認めるかどうかという感情。同感があるからこそ、人間は利己的でも社会は一定の秩序を保つことができる。

この『道徳感情論』は『国富論』の土台となっています。つまり、「人間は利己的なのに、なぜ社会がまとまるのか?」という問いから、アダム・スミスの経済研究は始まったのです。

『道徳感情論』について詳しく知りたい方は、下記の記事で解説しています。

アダム・スミス『道徳感情論』をわかりやすく解説|国富論との違いも整理

国富論:諸国民の富

アダム・スミスは『道徳感情論』の後に、『国富論』を発表しました。日本語訳では「諸国民の富」とも呼ばれます。

正式な英語タイトルは非常に長く、『An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations』です。直訳すると「諸国民の富の性質と原因についての研究」となります。

つまり、『国富論』とは「国の豊かさとは何か」「その豊かさはどのように増えるのか」を考えた本です。

「富」というと曖昧に感じるかもしれませんが、ここでは国の豊かさと考えればわかりやすいです。アダム・スミスは「国はどうすれば豊かになるのか」を本格的に研究したのです。

社会の富とは何か?

社会の富

アダム・スミスは、まず「富」とは何かを定義しました。

アダム・スミスの定義する富
富とは、国民の労働によって生産される必需品と便益品である。

ここでいう必需品とは、生活に必要な食料・衣服・住居などのことです。

便益品とは、生活をより便利で豊かにする商品です。たとえば書籍や文房具など、なくてもすぐ困るわけではないが、暮らしを便利にするものだと考えるとわかりやすいです。

つまりアダム・スミスは、生活必需品や便益品といった「消費財」こそが、社会の富であると考えました。

重商主義を批判

重商主義

アダム・スミスが『国富論』を書いた当時は、国の豊かさとは、どれだけ金や銀などの貴金属を持っているかで決まると考えられていました。

この考え方を重商主義といいます。

重商主義では、国内で製品を作って外国へ輸出し、金銀を国内に集めれば国は豊かになると考えました。逆に、外国から小麦などを輸入して金銀を支払うと、国は貧しくなると考えたのです。

重商主義とは
国内の金・銀・貴金属の量が国の豊かさであるとする考え方。輸出は国を豊かにし、輸入は国を貧しくすると考える。

しかし、アダム・スミスはこの重商主義を批判しました。

今見ると極端な考えに感じますが、現代でも「貿易黒字は良いことで、貿易赤字は悪いことだ」と単純に考えてしまうことがあります。その意味で、重商主義的な発想は今でも残っています。


なお、重商主義を批判した人物はアダム・スミスだけではありません。フランスのフランソワ・ケネーも、アダム・スミス以前に同様の問題意識を持っていました。詳しくは下記で解説しています。

5分でわかるフランソワ・ケネーの「経済表」 – わかりやすく解説

輸出奨励金制度は国を貧しくする

アダム・スミスは「輸出奨励金制度」も批判しています。

輸出奨励金制度とは、特定の商品を海外へ輸出しやすくするために、国が補助金を出す制度です。

アダム・スミスは、本来なら競争力の弱い商品に補助金をつけて延命させることになり、結果として国全体の富を減らしてしまうと考えました。

より良い商品を作る努力をしなくても海外で売れてしまうなら、その産業の競争力はむしろ低下していくからです。

ちなみに、海外貿易や自由貿易の考えをさらに発展させた人物にリカードがいます。彼の「比較優位」は自由貿易論の基礎となっています。

リカードとは?『経済学および課税の原理』をわかりやすく解説|比較優位・自由貿易の基本

分業することで生産性が高まる

アダム・スミスは、富を増やす方法として分業を重視しました。

『国富論』では、針の製造を例に説明しています。たとえば一人で針を作るなら、針金を切り、穴を開け、先を尖らせるまで全て自分でやらなければなりません。しかし、「針金を切る人」「穴を開ける人」「先を尖らせる人」と役割を分ければ、1日で大量の針を作ることができます。

今では当たり前に思える考え方ですが、「分業によって生産性が大きく上がる」という点を明確に示したことは、当時としては非常に画期的でした。

分業は利己心によって成立する

では、分業はどのように成立するのでしょうか。

みんなが「社会のために協力しよう」と心を一つにして動いているわけではありません。「針を切る人」も「穴を開ける人」も「先を尖らせる人」も、自分のためにお金を稼ごうとしているだけです。

全員が自分の利益を求めて行動した結果として、分業が成立し、生産性が高まるとアダム・スミスは考えました。

『道徳感情論』では、利己的な人間同士でも「同感」によって社会秩序が保たれると説明しました。『国富論』ではさらに一歩進めて、利己心そのものが分業や生産性向上を生み出し、社会全体を豊かにしていると考えたのです。

モノの値段も利己心で成立する

アダム・スミスは、モノの値段も利己心によって決まると考えました。

たとえば、近所の果物屋がりんごを200円で売っていたとします。しかし全然売れない。隣町では同じりんごが180円で売られていたと知れば、自分も値下げせざるを得ません。

このとき果物屋は、お客さんのためを思って値下げしているわけではありません。自分の商品が売れず、利益が出ないから価格を下げているのです。

つまり、値段もまた、売り手と買い手がそれぞれ利己的に行動する中で、自然に調整されていくと考えたわけです。

見えざる手

アダム・スミスは、個人が利己心に従って利益を追求した結果、分業が成立し、価格も調整され、社会全体がうまく回ると考えました。

有名なのが「見えざる手」という表現です。

なお、アダム・スミスは「神の見えざる手」とは書いておらず、単に「見えざる手」と表現しています。

高校や大学で習うミクロ経済学では、需要と供給が一致するところで価格が決まると学びます。

まさに、この需要と供給による価格調整を、アダム・スミスは「見えざる手」と表現したのです。後のミクロ経済学は、この考えを数学的に整理し、理論として発展させました。

ミクロ経済学とは?初心者向けにわかりやすく解説|需要曲線・供給曲線の基

3つの国の役割

アダム・スミスは「すべて市場任せでよい」と考えた人だと思われがちですが、実際にはそうではありません。

彼は、国家にも重要な役割があると考えていました。具体的には次の3つです。

一つ目は国防です。他国に攻め込まれれば、市場そのものが成り立たなくなるからです。二つ目は司法行政です。犯罪が横行すれば、安心して取引ができません。三つ目は公共施設の整備です。道路や橋など、民間だけでは十分に整備できないものは国家が担うべきだと考えました。

担うべき国の役割
  1. 国防
  2. 司法行政
  3. 公共施設の整備

『国富論』をさらに深く学ぶには?

アダム・スミスの『国富論』をさらに深く理解したいなら、この上下巻セットがおすすめです。

値段は少し高めですが、日本語訳が非常に自然で読みやすく、内容も安定しています。訳書によっては読みにくいものもありますが、この版はかなり理解しやすいです。

古典とはいえ、現代にも通じる考え方が詰まった名著なので、教養として読んでおいて損はありません。

まとめ

アダム・スミスの『国富論』は、近代経済学の基礎を作った本です。後のミクロ経済学やマクロ経済学につながる重要な考え方が、すでにこの本の中に含まれています。

とくに有名な「見えざる手」は、需要と供給によって価格が調整されるという、後の経済学の中心的発想につながっています。

また、アダム・スミスの考え方は、近年ノーベル経済学賞を受賞したフリードマンの「新自由主義」とも通じる部分があります。

ミルトン・フリードマンの「資本主義と自由」とは?新自由主義をわかりやすく解説

かなり昔の本ですが、現代にも通じる先進的な視点が多く含まれています。一方で、その自由主義的な考え方を批判し、資本主義の問題点を指摘したのがマルクスの『資本論』です。

マルクスの資本論をわかりやすく解説|剰余価値・資本蓄積・資本主義の問題点

このように経済学は、一つの正解にたどり着いた学問ではなく、さまざまな立場を行き来しながら発展してきた学問だといえます。

4 COMMENTS

numa56

失礼しました。ご指摘の通りとなります。こちら修正してアップロードしました。

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山陰鉄道サムライ

ルパン三世のマモーの正体。それはプロテリアル安来工場で開発されたSLD-MAGICという高性能特殊鋼と関係している。ゴエモンが最近グリーン新斬鉄剣と称してハイテン製のボディーの自動車をフルスピードでバッサリ切り刻んで、またつまらぬものを斬ってしまったと定番のセリフ言いまくっているようだ。話をもとにもどそう、ものづくりの人工知能の解析などを通じて得た摩耗の正体は、リカバリー性も考慮された炭素結晶の競合モデル/CCSCモデルとして各学協会で講演されているようだ。

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ジャーナル軸受ストライベック

KPI競合モデル(関数接合論、出典 材料物理数学再武装)によって右も左もぶっ飛んだ感じだな。イデオロギー終焉の決定打だ。AI時代おそるべし。

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