ミルトン・フリードマンは『資本主義と自由』の中で、「新自由主義」という考え方を強く打ち出しました。新自由主義は、その後の各国の政策に大きな影響を与えています。
この記事では、フリードマンの著書『資本主義と自由』をできるだけわかりやすく解説します。あわせて、新自由主義の問題点についても整理していきます。
ミルトン・フリードマンとは?

ミルトン・フリードマンは、アメリカの経済学者で、「新自由主義」の代表的な論者として知られています。
新自由主義とは、「政府が余計な介入をせず、市場に任せることが経済にとって最もよい」という考え方です。
なお、「新」自由主義ではなく、単に自由主義という考え方も存在します。
自由主義の代表的な人物はアダム・スミスです。有名な「見えざる手」という考え方のように、市場を自由に機能させることで経済はうまく回ると考えました。詳しくは下記で解説しています。
つまり、新自由主義は古典的な自由主義の考えを受け継ぎつつ、現代的に再構成したものだと考えるとわかりやすいです。
また、自由主義的な立場で有名な経済学者としてフリードリヒ・ハイエクもいます。フリードマンは思想的にハイエクの影響も受けています。
ちなみに、経済学者ケインズは新自由主義とは逆の立場でした。政府が積極的に市場へ介入し、公共政策によって経済を安定させるべきだと考えました。詳しくは下記で解説しています。
フリードマンのシカゴ学派とは? リバタリアニズムの思想

フリードマンはユダヤ系の家庭に生まれ、決して恵まれた環境ではありませんでした。
そのような環境の中で学問によって道を切り開き、最終的には大学教授にまで上り詰めます。そしてシカゴ大学を中心に発展した「シカゴ学派」の代表的人物となりました。
このシカゴ学派の根底にある考え方の一つが、リバタリアニズムです。
哲学とは、簡単に言えば「物事の捉え方や考え方の土台」を考える学問です。リバタリアニズムは、次のような考え方です。
より詳しく知りたい方は下記の記事で解説しています。
リバタリアニズムは、政府が何かを禁止しても、本質的に問題は解決しないと考えます。
たとえば麻薬を禁止しても、裏で作る人や売る人は必ず現れます。だったら禁止そのものを減らし、できるだけ自由に任せた方がよいのではないか、という非常に徹底した自由の思想です。
実は仮想通貨、つまりクリプトカレンシーも、こうしたリバタリアニズム的な思想と親和性があります。法定通貨は中央銀行によって管理されますが、ビットコインのような仕組みには、そうした管理から自由になりたいという発想が含まれています。
中央銀行の仕組みについては、下記の記事も参考になります。
新自由主義とは何か?
新自由主義は、こうしたリバタリアニズムの考え方を背景にしています。
フリードマンは、人々ができるだけ自由に生きるために、政府は次の2つの原則を守るべきだと考えました。
- 第1原則:国防
他国から攻撃されたときに、政府は国民を守らなければならない。外国からの侵略は国民の自由への侵害だからです。 - 第2原則:小さな政府
政府が何か政策や制度を行う必要がある場合でも、できるだけ小さな単位で実施すべきだとする考え方です。国より県、県より市というように、できるだけ下位の単位に任せるべきだと考えました。
その理由は、国レベルで一律の政策を行うと、国民は従いたくなくても従わざるを得ないからです。一方、市や地域レベルであれば、別の地域へ移るという選択肢も持ちやすくなります。
つまり、国民の自由を最大限守るために、政府の役割はできるだけ小さくすべきだと考えたのです。
この考え方は、アダム・スミスの思想ともかなり近いです。アダム・スミスも、国家の役割は「国防」「司法行政」「公共施設の整備」に絞り、それ以外は市場に任せるべきだと考えていました。
小麦は誰が作ったのか?
フリードマンは『資本主義と自由』の中で、非常に象徴的な例えを示しています。
フリードマンはここから、自由な市場では人種や属性ではなく、商品やサービスの価値そのものが重視されると説明しました。
つまり、市場経済が十分に機能すれば、差別すら弱める方向へ働くと考えたのです。
フリードマンが唱えた「政府がやるべきでないこと」
フリードマンは、政府が本来やるべきではないと考えた項目を数多く挙げています。この一覧を見ると、彼がどれほど徹底して自由を重視していたかがわかります。
2. 輸入関税または輸出制限
3. 農産物の作付面積制限や原油の生産割当てなどの産出規制
4. 家賃統制
5. 法定の最低賃金や価格上限
6. 細部にわたる産業規制
7. 連邦通信委員会によるラジオとテレビの規制
8. 現行の社会保障制度、とくに老齢・退職年金制度
9. 事業・職業免許制度
10. 公営住宅や住宅建設を奨励するための補助金制度
11. 平時の徴兵制
12. 国立公園
13. 営利目的での郵便事業の法的禁止
14. 公有公営の有料道路
たとえば事業・職業免許制度ですら、フリードマンは見直すべきだと考えました。
日本では医師免許を持つ人だけが医療行為を行えますが、フリードマンの発想では、そのような制度すら市場に委ねてもよいのではないか、という方向へ向かいます。
つまり、医療の質が低い人には患者が集まらず、逆に本当に優れた医師には自然に人気が集まるはずだ、という考え方です。かなり徹底した市場信頼だと言えます。
新自由主義の問題点(光と影)
新自由主義は、「自由」という言葉の響きから、一見すると国民主体の理想的な考え方にも見えます。
しかし、政府の介入を減らし、規制を緩和することで、現実には貧富の差が広がったと批判されています。
日本でも小泉政権期に新自由主義的な改革が進められました。代表例が労働市場の規制緩和です。派遣労働が広がった結果、不景気の際には大量の派遣切りが起こり、企業と労働者の格差がさらに目立つようになりました。
アメリカでも、レーガン政権期に新自由主義路線の政策が進められ、その後の大きな格差拡大につながったと指摘されています。
自由放任を徹底するということは、極端に言えば弱肉強食を容認することでもあります。そのため、経済の活発化というメリットがある一方で、多くの敗者を生み、大きな格差を固定化するという副作用も生みました。
新自由主義の歴史から学べるのは、自由には力強さがある一方で、行き過ぎれば社会を不安定にするという点です。
格差論が空前のヒット

格差論のベストセラーとなったピケティの『21世紀の資本』も、行き過ぎた自由主義によって生じた格差に対する社会の不満が背景にあったと考えられます。
ピケティの『21世紀の資本』については、下記で解説しています。
私たちは、資本主義の弱点をどう補い、より持続可能な体制へ修正していくかを考えなければならない時期に来ているのかもしれません。


