世界恐慌とは、世界規模で起こる連鎖的な景気後退のことです。記憶に新しい世界恐慌としては、2008年に起きたリーマン・ショックがありますが、過去にも75年から100年ほどの周期で大規模な経済危機が発生してきました。
そのメカニズムについては、経済学者たちが長年頭を悩ませており、さまざまな立場から原因が考察されています。
リーマンショックについて詳しくは、下記のリンクで解説しています。
この記事では、過去に起きた世界大恐慌の原因について考えていきます。さまざまな経済学者の立場を見ることで、世界恐慌への理解を深めていきましょう。
世界恐慌発生のメカニズム
世界恐慌は、どのようなメカニズムで発生するのでしょうか?
たとえば、1929年にアメリカで起きた「世界恐慌」と、2008年に起きた「リーマンショック」は、どちらも大規模な経済危機ですが、細かく見れば発生メカニズムは異なります。
ただし、それぞれの共通点を抜き出してマクロな視点から分析すると、概ねこれから説明するような仕組みで恐慌は発生していると考えられます。
アメリカのブリッジウォーター・アソシエイツの代表であり、著名な投資家でもあるレイ・ダリオが示した経済観は、この点を非常にわかりやすく整理しています。彼は2008年のリーマンショックもある程度予見できていたことで知られています。
債務の長期的な増大が恐慌を生み出す
恐慌について考える前に、そもそも「経済変動」はどのように起こるのかを見ていきます。
よく「好景気」「不景気」と言われますが、それらは何によって生まれるのでしょうか。
まず、経済変動は3つの要素によって引き起こされると考えられます。

- 生産性の向上
- 債務の短期的な周期
- 債務の長期的な周期
この3つの要素を押さえることで、大規模なリセッション(景気後退)がどのように起こるのかを理解しやすくなります。
❶ 生産性の向上
生産性の向上は、GDPの増加であり、所得の増加を意味します。たとえば、農業技術の進歩や技術革新などがこれにあたります。
これは長期的には非常に重要ですが、上昇スピードは比較的緩やかで、短期間に急激な変動を起こすものではありません。

ところが、ここに借金が加わると、経済には大きな波が生まれます。
❷ 債務の短期的な周期
経済変動の大きな波は、上で説明したような生産性の向上だけで起こるわけではありません。長期的に見れば、生産性の上昇は重要ですが、短期ではそれほど大きく動きません。経済変動の大きな波を作るのは、借金(クレジット)です。
借金のない世界では、所得を増やす方法は、生産性を高めるか、労働時間を増やすかのどちらかです。生産性が高まり、所得が増えれば、支出も増えます。その支出は誰かの所得になるため、経済は自然に循環します。つまり、借金のない世界では、所得の増加は生産性の向上とほぼ同時に起こります。
しかし、借金ができる世界では、収入以上に支出することができます。あなたの支出は誰かの所得になるため、これが経済に大きな波を生み出します。

借金は、生産性の向上よりもはるかに大きく、しかも短期的な景気の波を作り出します。その理由は、アメリカで流通している現金が約3兆ドルであるのに対し、流通している借金(クレジット)は50兆ドル規模とも言われるからです。
つまり、借金は経済全体に非常に大きな影響を与えます。しかし、この波には必ず折り返しがあります。なぜなら、借金は支出を前倒ししているにすぎないからです。いずれ返済のために支出を抑えなければならない局面がやってきます。

これが債務の短期的な周期であり、5年から8年程度の周期で起こるとされています。
❸ 債務の長期的な周期
短期の債務周期では、景気の底も天井も、前の周期より高くなっていく傾向があります。では、なぜそうなるのでしょうか?

それは、人々が「この繁栄は続く」と信じてしまうからです。人は直近の成功体験に強く影響されます。最近何が起きているでしょうか。所得が増え、資産価格も上昇している。そうなると、人は借金をしてでも資産に投資したほうが得だと考えるようになります。この傾向が強まると、バブルが発生します。
日本では1989年ごろ、アメリカなどでは2008年にも同じような現象が見られました。資産価格は今後も上がり続けると信じ、借金をしてでも投資したいという心理が強くなった結果です。
しかし、これは長くは続きません。どこかの時点で、資産価値の上昇を債務の増加が上回る瞬間が訪れます。増えすぎた債務を抱えきれなくなり、経済は反転します。
債務が重くなると、人々は支出を減らします。支出は誰かの所得ですから、所得が減り、資産価格が下がり、借り入れもしにくくなり、さらに支出が減るという悪循環に入っていきます。

この大きな経済変動は、75年から100年ほどの周期で起こると考えられています。それだけ長い時間が経つと、人々が「経済はもう崩れない」と再び思い込みやすくなるからかもしれません。
この経済観については、下記のリンクでさらに詳しく解説しています。
世界恐慌の原因
世界恐慌(恐慌)の原因については、さまざまな経済学者が異なる説明をしています。
この記事では、主要な立場ごとの見解を整理していきます。
ケインジアンの立場
ケインジアンとは、ケインズ経済学を支持する経済学者たちのことです。ケインズは『雇用、利子および貨幣の一般理論』という、経済学に大きな影響を与えた著作で知られています。詳しくは下記のリンクで解説しています。
ケインジアンは、恐慌の原因を「信用の低下による投資と消費の急激な落ち込み」に求めます。そして、その急激な落ち込みは、過剰投資、すなわちバブルによって引き起こされると考えます。
一度信用が崩れると、中央銀行がいくら金利を引き下げても、企業や個人が投資をしたがらなくなる局面が訪れるとされます。なぜなら、不景気のときは消費の低迷が続くと予想されるため、事業として投資を控える判断が合理的になるからです。そのため、金利を下げて資金調達をしやすくしても、景気後退は止まらず、経済は深刻な不況へ向かうと主張します。
この立場は、「金利さえ動かせば経済は回復する」という自由主義的な考え方への批判でもあり、より積極的な政府支出や社会福祉の必要性を強調しています。
マネタリストの主張する恐慌の原因
マネタリストの代表的な人物は、新自由主義で有名なフリードマンです。フリードマンは「小さな政府」を掲げ、ケインズ的な大規模財政支出には否定的でした。
フリードマンは、恐慌の原因は中央銀行の金融政策の失敗にあると主張しました。
- 財政政策
政府が公共事業などの支出を増やすこと - 金融政策
中央銀行が金利や貨幣供給量をコントロールすること
マネタリストは、恐慌は市場に出回る貨幣量が著しく減少することで発生すると考えます。実際、1929年の世界恐慌では、好景気時に比べて市場の貨幣量が大きく減少しており、それが貨幣の退蔵(貯金)をさらに進め、景気を一層冷え込ませたとされます。
つまり、貨幣供給量さえ適切にコントロールできれば、恐慌は防げるというのがマネタリストの基本的な立場です。
実際に、2008年のリーマンショック時には、FRB(連邦準備制度)が可能な限り大量の資金を市場に供給しました。その規模はおよそ5兆ドルとも言われています。その対応によって、過去の恐慌と比べて比較的早く経済を立て直すことができた、というのがこの立場の見方です。
コラム 金本位制の欠点
かつて多くの国は、保有する金の量によって貨幣供給量が制限される「金本位制」を採用していました。
マネタリストの立場から見ると、金本位制では恐慌に柔軟に対応することができません。実際に1929年の世界大恐慌は、金本位制が原因で長期化した側面もあると考えられています。
市場にお金が不足していても、政府や中央銀行は保有する金の範囲でしか通貨を増やせないため、必要なタイミングで十分な金融緩和ができないからです。
金本位制のメリット・デメリットについては、下記のリンクで詳しく解説しています。
また、米ドルとの交換レートを固定する米ドルペッグ制も、経済の安定には必ずしも有利ではありません。実際、「アジア通貨危機」はドルペッグ制の問題が一因だったとも言えます。詳しくは下記のリンクで解説しています。
世界恐慌の歴史・いつ起きたのか?
ここからは、歴史上の代表的な恐慌を見ていきます。
| 年代 | 大恐慌 |
|---|---|
| 1929年 | ウォール街大暴落(大恐慌) |
| 1991年 | 日本バブル崩壊(日本) |
| 1997年 | アジア通貨危機 |
| 2008年 | リーマンショック |
ウォール街大暴落(大恐慌)

「恐慌」という言葉を象徴する出来事となったのが、アメリカ・ウォール街の株価大暴落です。この暴落は世界経済全体へ連鎖し、深刻な大不況を引き起こしました。食料にも困る人が続出し、実際に飢え死にする人まで現れたほどでした。
原因は、先ほど述べたように過剰な投資と債務の膨張です。さらに悪いことに、恐慌時に政府が有効な対策を打てなかったことも、事態を深刻化させました。詳しくは下記リンクで解説しています。
日本のバブル崩壊

日本のバブル崩壊も、債務の長期周期が折り返した代表例の一つです。当時の日本は変動相場制への移行で円高が進み、日本製品が売れにくくなりました。
そこで内需を拡大するために金利を極限まで引き下げ、投資を促しました。しかし、その副作用は非常に大きく、投資が過剰になった結果、バブルが崩壊しました。
アジア通貨危機
アジア通貨危機は、アジア新興国、とくにタイ、インドネシア、香港、韓国で起きた大規模な景気後退です。
原因の一つは、海外投資家による実体経済以上の過剰投資でした。さらに大きな打撃を受けた国々は米ドルとの固定相場制を採用しており、それによって柔軟な金融政策を取りにくかったことも、危機を深刻化させた要因です。
詳しくは下記のリンクで解説しています。
リーマンショック(世界金融危機)
リーマンショックは、2008年に発生した比較的新しい世界規模の金融危機です。アメリカの低所得者向け住宅ローンである「サブプライムローン」を証券化し、それがさまざまな金融商品に組み込まれていたことで、金融市場全体に深刻な影響を与えました。詳しい原因は下記のリンクで解説しています。
ここまで紹介した歴史的な恐慌は、いずれも、過剰な投資によって債務が膨張しすぎた結果として発生しています。長期の債務周期は本来避けたいものですが、実際には多くの国が同じような失敗を繰り返してきました。
まとめ
世界規模の恐慌のメカニズムと原因について解説しました。各国は過去に何度も恐慌を経験し、そのたびに対策を模索してきました。
2008年のリーマンショックでは、不足した資金を補うために、中央銀行が大量の資金供給を行いました。それはアメリカだけでなく、多くの国で同時に行われました。そして金利は限りなくゼロに近づきました。その結果、経済は持ち直しましたが、対応を誤れば1929年のようにさらに深刻化し、貧困の拡大、さらには戦争へとつながる危険もあります。
経済の安定は、国家や世界の安定にとって不可欠です。ドイツでヒトラーが力を強めた背景にも、経済不安と貧困がありました。私たちは過去から学び、恐慌への適切な対策を考え続けなければなりません。


