10分でわかるアジア通貨危機 – 原因や影響をわかりやすく解説 –

アジア通貨危機は、アジア新興国(タイ・インドネシア・韓国・香港)で起きた一連の金融危機です。97〜98年に起こりました。

約20年前に起きた比較的新しい金融危機ですが、日本への影響は限定的だったことから実態について理解されていません。

この記事ではアジア通貨危機が起きた一連の流れを解説し、その原因について考察します。今後、世界でも同様のことが起き得ることであり、新興国に投資する際の参考になるはずです。

アジア通貨危機が起きた背景

アジア通貨危機が起こる数年前、アジア新興国は急激な経済成長を遂げていました。なんとGDP成長率は毎年10%を超えるほどでした。

この好景気を後押ししたのは、アメリカや日本等の先進国からの投資でした。アジアには多くの工場が立ち並び、世界の一大生産拠点へと変化していきました。

順風満帆に見えたアジア新興国の経済成長は、97年に急激に傾き始めます。そして、それは一部の人によって起こされました。

アジア経済危機が起きた3つの原因

アジア新興国は、なぜ急激に失速することになったのでしょうか? 原因は大きく3つ存在します。

  1. 米ドルとの固定相場制による対外準備高不足
  2. 「経常収支の赤字」と「資本収支の黒字」
  3. 機関投資家による相場操縦 
順番に解説していきます。

原因❶ 米ドルとの固定相場制に起因する対外準備高不足

アジア通貨危機で最も影響を受けた国々は3つの特徴を持っていました。

  1. 米ドルとの固定相場制
  2. 金利の高い
  3. 流入規制の緩和

❶. 米ドルとの固定相場制

通貨危機の影響が大きかった4つの国(タイ、インドネシア、韓国、香港)は、米ドルとの固定相場制を採用していました。

その理由は、海外から投資を呼び込みたかったためだと考えられます。米ドルとの固定相場制であれば、投資家は為替変動のリスクなしで、アジア新興国に投資することができます。その結果、実際に多くの投資を呼び込み経済成長を果たしました。

❷. 金利の高さ

4つの国(タイ、インドネシア、韓国、香港)は金利が非常に高い国でした。

参考:第3節 通貨制度に関するアジア地域の経験

上記の画像を見てわかる通り、タイ、インドネシア、韓国、香港はアメリカに比べて非常に金利が高くなっています。なんとインドネシアでは20%近くの金利を維持しています。インドネシアにお金を預けるだけで、お金が20%も増えるわけですから、当然、国外から資金が大量に流入しました。

さらに、先ほど説明したように固定相場制を採用していたため、為替の変動リスクを受けずに投資できますから、多くの投資家に好まれました。

金利についての詳しい仕組みについては、下記リンクの中央銀行の仕組みで解説しています。

【図解】10分でわかる金融と銀行の仕組みと役割。信用創造、中央銀行・銀行、利子について徹底図解。

❸. 流入規制の緩和

「固定相場制」と「金利の高さ」に加えて、アジア通貨危機の起こる数年前に、対外資本の流入規制が緩和されました。

「香港」はもともと流入規制が緩かったため変更はありませんでしたが、「タイ」「インドネシア」「韓国」は規制が緩和されました。外国資本の投資を適切に制限することで、自国の産業を守りながら経済発展をすべきですが、これら3つの国は外国資本家に対して、寛容すぎる政策をとりました。


上記の3つの事象が重なり、海外から多くの資金が流入してきました。

ただし、海外から資金が流入すること自体が「悪」ではありません。通貨危機の影響を受けた国はこれら三つの特徴を共通で持っていますが、それが原因で通貨危機が引き起こされた訳ではありません。

アジア通貨危機が引き起こされた原因は、米ドルで「短期資金」を海外から借り入れ、自国通貨で「長期資金」として国内産業に投資をしていたということです。

MEMO
  • 短期資金
    短期の借り入れ資金。一般的には、1年以内など短い期間で返済する。
  • 長期資金
    長期の借り入れ資金。1年以上の期間貸し出す資金。長期的でリードタイムの長い投資に使われる。

つまり、海外投資家が、急激なスピードで短期資金を引き上げた場合に、資金繰りが困難になる恐れがあるということです。長期資金は、すぐには回収不可能ですから、多くの企業が破綻してしまいます。外国から借りた多くの資金を自国通貨に換えて、ビルを建てたり、インフラを整備したり長期的な投資をしていました。

これらの国々は、通貨危機の起こる前に、急激に短期の債務を増やしています。

その理由は、先ほど説明した通り「固定相場制」や「金利の高さ」によって自国通貨の需要が高まり、「自国通貨高」に動きやすい状況だったからです。

各国は固定相場制を維持するために為替介入を行い、自国通貨を大量に売りました。

売り払われた通貨によって、証券や住宅などのバブルを生み、そのバブルがさらに海外投資家を呼び込みます。そして、短期債務が増え続けることとなります。

この状況下で、外国投資家が急激に資金を引き上げれば、長期の投資が債務不履行となり当然相場はクラッシュしてしまいます。

原因❷ 経常収支の赤字と資本収支の黒字

アジア経済危機が引き起こされた二つ目の原因は、「経常収支の赤字」です。

固定相場制のこれらの国々は、アメリカは強いドル政策により、ドル名目実効為替レートは上昇し続けていました。

名目実効為替レートとは、簡単に言うと「ドルの価値の高さ」です。ドル高が進めば、固定相場制の国も通貨高になります。当時の新興国は通貨高に悩まされており、国際競争力を失っていました。

例えば日本においても、円高が進めば、外国で売る日本車の値段が高くなりますから、国際競争力を失いますよね。一方で外国製品は安くなるので、日本国内で外国製品が沢山売れるようになります。そして貿易は赤字に傾きます。

これらをより詳しく理解するにはミクロ経済学の知識が必要です。下記リンクで詳しく解説しています。

10分で分かる「ミクロ経済学 」入門 | 初心者にも分かりやすく基礎を解説

その一方で、「資本収支」は黒字でした。資本収支とは、資産から収益を得る場合の収益であり、例えば住宅や設備などがそうです。これらの国々は証券や株式、そして住宅などの価格が上昇したことで、その収益率は上昇しました。

つまり、当時のアジア新興国のGDPの上昇は、海外からの資金流入(短期資金の投資)によって、自国の資本価格が上昇したことによって引き起こされました。実体経済である生産性が向上したわけではありませんでした。実際の下記のデータを見ると、生産性の増加はわずかでした。

参考:第3節 通貨制度に関するアジア地域の経験

原因❸ 機関投資家による相場操縦

ここまで説明してきたように、タイをはじめとしたアジア新興国は下記のような状況でした。

  • 短期債務の増加と対外準備資金の不足
  • 経常赤字と生産性の低迷 

つまり、実体経済とは大きくかけ離れて、投資が過剰になっていることが理解できます。さらには、その投資のために抱えている米ドルでの負債を払いきれるだけの、準備資金を持っていませんでした。

そこに目をつけたのが機関投資家です。一気に、新興国通貨を売り浴びせて、米ドルを引き上げれば、準備資金が足りないばかりでなく、短期資金を長期資金で振り替えて投資している事業も資金繰りが苦しくなります。

そして、機関投資家によって、大規模な空売りが仕掛けられ相場がクラッシュすることになります。もちろん投資家は空売りした資金を、崩れ切った相場から買い戻しています。そして多額の利益を数日で手にしました。

2008年から2009年に起きたリーマンショックも少数のエリートによって引き起こされた点は共通です。下記で詳しく解説しています。

10分でわかるリーマンショック – 原因や世界各国への影響をわかりやすく解説 –

まとめ

アジア通貨危機は、固定相場制の欠点を露呈したと言っても良いでしょう。

固定相場制自体が悪いわけではないですが、各国の状況を見て柔軟に調整できなければ、その穴を突かれてしまうことが理解できます。

政府の意思決定は、非常に遅くなりがちで、流動的な経済の動向を考慮して適切な固定レートを決定することは非常に難しいです。

また、対外準備高の不足も、この金融危機をより大きくした原因でもあります。世界各国は投資が過剰になりすぎないよう、流入資金を適切にコントロールし、対外準備高を高めながら、生産性を向上させる事業に投資することが重要です。

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