世界恐慌とは、世界規模で起こる連鎖的な景気後退です。記憶に新しい世界恐慌は2008年に起きたリーマン・ショックですが、過去にも75年から100年の周期で定期的に発生しています。
そのメカニズムについて経済学者が頭を悩ませており、様々な立場から原因について考察されています。
リーマンショックについて詳しくは下記のリンクで解説しています。
リーマンショックをわかりやすく解説 – 原因や影響を10分で簡単に説明 –この記事では、過去起きた世界大恐慌の原因について考えていきます。様々な経済学者の立場を見ていくことで、世界恐慌についての理解を深めていきます。
世界恐慌発生のメカニズム
世界恐慌は、どのようなメカニズムで発生するのでしょうか?
例えば、1929年にアメリカで起きた「世界恐慌」と、2008年に起きた「リーマンショック」は、同じ世界恐慌ですが、発生メカニズムは、細かく見ると異なります。
しかし、それぞれの共通項を抜き出してマクロな視点で、恐慌を分析すると、概ねこれから説明するようなメカニズムで発生しています。
アメリカのブリッジウォーターアソシエイツの代表であり、著名な投資家であるレイ・ダリオが示したこの経済観は、他のどの分析よりも優れています。なんと、2008年に起きたリーマンショックを予期することができています。
リーマンショックをわかりやすく解説 – 原因や影響を10分で簡単に説明 –債務の長期的な増大が恐慌を生み出す
恐慌について考える前に、「経済変動」はどのように引き起こされるのか考えていきます。
よく、好景気だ、不景気だなどと語られますが、それらはどのように引き起こされるのでしょうか?
まず、「経済変動」は3つの要素によって引き起こされると考えます。
- 生産性の向上
- 債務の短期的な周期
- 債務の長期的な周期
これらの3つの要素を考えることで、大規模なリセッション(景気後退)がどのように起こるのか考えていきます。
❶ 生産性の向上
生産性の向上は、GDPの増加であり、所得の増大を意味します。例えば、農業技術の進歩や技術の革新によるものです。
これは、上昇スピードは非常に緩やかで、短期間に大きな変動をすることはありません。
しかし、もし、借金をすることができれば、経済に大きな波が生まれます。
❷ 債務の短期的な周期
経済変動の大きな波は、上記のような技術革新などの生産性の向上で引き起こされるわけではありません。長期的に見れば、生産性の向上は経済変動に重要な要素ですが、短期的にはあまり変動しません。経済変動の大きな波は、借金(クレジット)によって引き起こされます。
借金(クレジット)のない世界では、所得を増加させる唯一の方法は、生産性と労働時間の増加です。生産性が増加し、所得が増加すると、支出が増加し、その支出は誰かの所得の増加へと繋がります。よって、借金のない世界では、所得の増加は、生産性の向上と同時に起こります。
しかし、もし借金をすることができれば、収入以上に、支出をすることができます。あなたの支出は、誰かの所得となるわけですから、これが経済の大きな波を作り出します。
借金は、生産性の向上よりも、短期的に大きな経済の波を作り出します。その理由は、アメリカに流通している、お金は約3兆ドルですが、流通している借金(クレジット)は50兆ドルです。
つまり、借金は、経済の波に大きな影響を与えます。しかしこの波は、必ず折り返しが起こります。なぜなら、借金は支出を前倒ししているに過ぎないからです。いずれ、借金の返済のために、支出を抑える瞬間が訪れます。
これが、債務の短期的な周期で、5年から8年の周期で起こると言われています。
❸ 債務の長期的な周期
短期的な債務周期の底と頂点は、前の周期の底と頂点よりも高くなります。それはなぜでしょうか?
人はすべてがうまくいっていると考えるからです。人は直近の動向にのみ注意を払います。最近何が起きているでしょうか?所得が増えている、資産価値も高騰している、その状況下で、人は債務を増やしてでも資産に投資する方が得策なのです。この傾向が強まると、バブルとなります。
日本では1989年に起こり、アメリカやその他の国では2008年にも起きました。これは、資産価値の上昇を盲信し、借金をしてでも投資をしたいと思う傾向が強まった時に起こります。
しかしこれは、長続きできません。どこかのタイミングで、資産価値の上昇よりも、債務が増えるタイミングが訪れます。増加した債務を抱えきれなくなるのです。そして経済変動の振り返しが起こります。
債務が増え始めると、支出を減らすこのになります。支出は誰かの所得ですから、所得が減り、資産価値が減り、借りることが難しくなり、支出がさらに減少します。そして、この負のスパイラルが起こり続けることになります。
この大きな経済変動は75年から100年の周期で起こります。その理由は、経済が崩れないという盲信を生み出すのに十分な期間だからかもしれません。
この経済感については、下記のリンクでより詳しく解説しています。
10分でわかる経済の仕組み。最もわかりやすいお金の仕組みと本質世界恐慌の原因
世界恐慌(恐慌)の原因は、様々な経済学者が、様々な意見を述べています。
この記事では、経済学者の主要な意見についてまとめていきます。
ケインジアンの立場
ケインジアンとは、ケインズ経済学を支持する経済学者です。ケインズは、「雇用、利子および貨幣の一般理論」という経済界に多大な影響を与えた著者です。詳しくは、下記のリンクで解説しています。
5分でわかるケインズの雇用・利子および貨幣の一般理論 | ケインズ経済学の基礎ケインジアンが主張する恐慌の原因は、信用の低下によって投資・消費が急激に落ち込むためと述べています。この急激な落ち込みは、過剰な投資(バブル)によって引き起こされると述べます。
一度、信用が落ちると、中央銀行が金利をいくら引き下げても、投資をしようと思わない瞬間が来ると述べています。なぜなら、不景気時は、消費の落ち込みが持続すると判断されるため、事業の分析として、投資を控えることになります。そのため、利子をいくら引き下げて、資本の調達が安価になったとしても、景気後退は続きます。そして経済はどん底まで落ち込み恐慌となると主張します。
この主張は、金利さえコントロールしていれば、経済が回復するという自由主義的な主張に対する批判であり、より積極的な政府の公共事業への支出や、社会福祉の必要性を説いています。
マネタリストの主張する恐慌の原因
マネタリストの代表は、新自由主義のフリードマンです。フリードマンは「小さな政府」を標榜しており、ケインズ的な財政支出を増やすことを嫌います。
5分でわかるフリードマンの「資本主義と自由」- 新自由主義をわかりやすく解説フリードマンは、中央銀行の金融政策の過ちによって恐慌は引き起こされていると主張しています。
- 財政政策
政府が公共事業などの支出を増やすこと - 金融政策
中央銀行の金利のコントロールと貨幣発行量のコントロール
恐慌が引き起こされる原因は、市場の貨幣量が著しく減少することで引き起こされるとしています。実際に1928年の世界恐慌では、好景気時の1/3ほどの通貨しか流通しておらず、それが、貨幣の蓄財(貯金)をさらに促し、経済を停滞させたと主張しています。
貨幣の通貨量さえ適切にコントロールできれば、恐慌を防ぐことができると考えました。この考えはマネタリストと呼ばれています。
実際に、2008年のアメリカのリーマンショックの時には、FRB(連邦準備銀行)は、できる限り新しいお金を印刷しました。その額はおよそ5兆ドルと言われています。その対策によって、過去の恐慌と比較して、早く経済を持ち直すことができました。
リーマンショックをわかりやすく解説 – 原因や影響を10分で簡単に説明 –コラム 金本位制の欠点
過去、多くの国が金の保有量に、貨幣の通貨量が制限される「金本位制」を採用していました。
マネタリストの立場からすると、金本位制では、恐慌を防ぐことができません。実際に1928年に起きた世界大恐慌は、金本位制が原因で、長期化したとも言えるでしょう。
お金が市場に足りなくなる状況であっても、政府は、金の保有量しか、新規通貨を発行できませんから、柔軟な金融政策ができません。
金本位制のメリット・デメリットについては詳しく下記のリンクで詳しく解説しています。
10分でわかる金本位制 – わかりやすく誕生や崩壊の歴史を解説 –また、米ドルと兌換を許す、米ドルペッグ制も、経済の安定には、あまり良くないことがわかります。米ドルとペッグしていたことで、「アジア通貨危機」が引き起こされたと言っても良いでしょう。下記のリンクで詳しく解説しています。
10分でわかるアジア通貨危機 – 原因や影響をわかりやすく解説 –世界恐慌の歴史・いつ起きたのか?
世界恐慌(恐慌)の歴史について見ていきます。下記が代表的な恐慌の例です。
年代 | 大恐慌 |
---|---|
1929年 | ウォール街大暴落(大恐慌) |
1991年 | 日本バブル崩壊(日本) |
1997年 | アジア通貨危機 |
2008年 | リーマンショック |
ウォール街大暴落(大恐慌)
恐慌という言葉が生まれるきっかけにもなった、アメリカのウォール街の株価大暴落です。この暴落は、連鎖的に世界経済に影響を与え大不況となりました。食べ物にも困るほどで、周りで飢え死にする人が出るほどでした。
原因は先ほど述べたように、投資が過剰となりすぎたためです。さらに悪いことに、恐慌時に有効な政策を政府が取れなかったことも事態を悪化させました。下記リンクで大恐慌について詳しく解説しています。
世界恐慌の原因と発生メカニズムを分かりやすく解説 – 影響や各国の対策も解説 –日本のバブル崩壊
日本のバブル崩壊も、債務の長期周期の折り返しの1つです。当時の日本は、変動相場制へと移行したことで、円高へと推移し、日本の製品が売れなくなりました。
そこで内需を拡大しようと、金利を極限まで引き下げ、投資を促しました。しかしその弊害は非常に大きく、投資が過剰になり、バブルが崩壊することとなります。
アジア通貨危機
アジア通貨危機は、アジア新興国、特にタイ、インドネシア、香港、韓国で起きた大規模な景気後退です。
これらが起きた原因は、国外投資家による、実体経済以上の投資が行われたことが原因です。影響が大きかった上記の4つの国は、米ドルとの固定相場制を採用しており、これが柔軟な金融政策を行えず、大きな恐慌となった原因でもあります。
詳しくは下記のリンクで解説しています。
10分でわかるアジア通貨危機 – 原因や影響をわかりやすく解説 –リーマンショック(世界金融危機)
リーマンショックは2008年に起きた比較的新しい恐慌です。アメリカの低所得者向けの住宅ローン「サブプライムローン」を証券化して、様々な金融商品に組み込まれたことで、証券市場に大きな影響を与えました。詳しくは下記のリンクで原因を解説しています。
リーマンショックをわかりやすく解説 – 原因や影響を10分で簡単に説明 –上記紹介した、歴史的な恐慌はすべて、説明した通り、投資が過剰になり債務が増えすぎたことで起きています。長期の債務周期は、避けるべきことではありますが、このように様々な国が経験しています。
まとめ
世界規模の恐慌はのメカニズムや原因について解説しました。多くの国で過去何度か恐慌を繰り返しながら、様々な対策を取ってきました。
2008年に起きたリーマンショックでは、足りなくなったお金を賄うために、中央銀行は多くのお金を発行しました。それはアメリカに限らず多くの国で行われました。そして金利は限りなくゼロに近づきました。その結果、経済を現在は持ち直しましたが、対応を間違えれば1929年のようにより深刻になり、貧困が生まれ、そして戦争へと向かいます。
経済の安定は、国家や世界の安定のために必要不可欠です。ドイツのヒトラーが力を増したのも、経済の不安定さと貧困からでした。我々は過去から学び正しい恐慌への対策をしていく必要があります。