量的緩和(QE)を図解で解説|マネタリーベースとマネーストックの違い

金融緩和・量的緩和(QE)について、10分でわかりやすく解説します。

世界各国の「マネタリーベース」や「マネーストック」の推移を見ながら、量的緩和が与える影響について整理していきます。複雑になりがちな金融緩和ですが、できるだけシンプルに図解することで全体像を俯瞰します。

この記事を読めば、世界全体が金融政策の限界に直面しつつあることが理解できるはずです。なお、現代の金融政策全般を理解するには、経済学の大きな流れを押さえておくと役立ちます。下記リンクでざっくりと解説していますので、目を通しておくことをおすすめします。

経済学とは何か?歴史をわかりやすく解説| 古典経済学から近代経済学まで

金融緩和とは何か?

金融緩和は、安倍政権と黒田日銀によって強力に進められたこともあり、一度はニュースで見聞きしたことがある方も多いのではないでしょうか。

簡単に言えば、金融緩和とは「世の中に出回るお金の量」を増やしていくことです。その代表的な方法は大きく2つあります。1つは中央銀行が政策金利を引き下げること、もう1つは中央銀行が市中銀行(民間銀行)の国債を買い上げることです。

金融緩和とは?
  1. 中央銀行が政策金利を引き下げる
  2. 中央銀行が市中銀行の国債を買い上げる

1. 中央銀行が政策金利を引き下げる

金融緩和の1つ目は、金利を引き下げることです。

中央銀行が金利を引き下げれば、そこからお金を借りる民間銀行も資金を調達しやすくなります。すると、民間銀行が企業や一般家庭に貸し出す際の金利も下がり、お金を借りやすくなります。

「お金を借りるだけでは、お金が増えたことにならないのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、経済全体で見ればそうではありません。

たとえば、あなたが3000万円の住宅を購入したとします。その代金は銀行から住宅メーカーに振り込まれます。そして銀行は、その貸し出しに対して金利収入を得ます。

つまり、借金であっても取引が成立すれば、世の中を流れるお金は増えます。金利が低いほどお金を借りやすくなり、結果として世の中に出回るお金も増えやすくなるのです。

逆に金利が高ければ、お金は借りにくくなりますから、世の中に出回るお金は減少しやすくなります。

詳しくは、下記の中央銀行の仕組みの記事で解説しています。金融緩和を理解するには、中央銀行の役割を押さえておくことが大切です。

中央銀行の仕組みをわかりやすく解説|紙幣の誕生と歴史から学ぶお金の正体

2. 中央銀行が市中銀行の国債を買い上げる

「世の中に出回るお金の量」を増やす方法は、もう1つあります。

それが、民間銀行の持つ国債を中央銀行が買い上げ、お金を供給する方法です。民間銀行は資産として多くの国債を保有しています。

国債とは?
国の借金のこと。国は国債を発行して、政府の財政支出をまかなっています。

この国債を中央銀行が買い上げることで、民間銀行の手元資金が増えます。銀行は現金を持っているだけでは収益になりにくいため、その資金を使ってさらに貸し出しや投資を行おうとします。

禁じ手の財政ファイナンス

世の中に出回るお金を増やす方法は、実はもう1つあります。それが財政ファイナンスです。

簡単に言えば、中央銀行が新しいお金を直接作り出すことです。ただし、この方法は非常にリスクが高いとされています。制約なくお金を発行できてしまうため、やり過ぎればハイパーインフレを招きかねません。

過去にはドイツやジンバブエなどで、新しいお金を刷りすぎた結果として、経済が深刻な混乱に陥りました。

詳しくは下記のリンクで解説しています。

ハイパーインフレとは?原因・歴史・対策をわかりやすく解説

「マネタリーベース」と「マネーストック」とは?

ここまでで、金融緩和の基本的な考え方はつかめたかと思います。では、「世の中に出回るお金」は何を使って測ればよいのでしょうか。

世の中に出回るお金の量を測る代表的な指標が、「❶. マネタリーベース」と「❷. マネーストック」です。

❶. マネタリーベース

マネタリーベースとは、「世の中に出回る現金の総量」と、「民間金融機関が中央銀行に預けている現金の総量」を合わせたものです。

簡単に言えば、紙幣や硬貨など、中央銀行が供給するお金の土台です。

マネタリーベースは、日本語にすると「お金の基盤」といえます。この基盤をもとに、さらに多くのお金が民間で生み出されていきます。

❷. マネーストック

マネーストックとは、「世の中に出回るお金」に加えて、「民間銀行に預けられた預金」を含めたものです。

一般的に、マネーストックはマネタリーベースよりもずっと大きく、しばしば10倍近い規模になります。

なぜでしょうか?

先ほどの住宅ローンの例で考えてみます。あなたが3000万円の住宅をローンで購入すると、住宅メーカーの口座には3000万円の預金が増えます。銀行は、そのうち一部を準備金として残し、残りを別の誰かに貸し出します。その貸し出されたお金が、また別の銀行預金になります。

たとえば3000万円の貸し出しから、新たに2700万円の預金が生まれれば、3000万円+2700万円で5700万円分の預金が存在することになります。

つまり、銀行は手元資金の一部を残して、残りを貸し出すことができるため、貸し出しが繰り返されることで預金が増えていきます。この仕組みを信用創造と呼びます。マネタリーベースを土台にして、信用創造によってより大きなマネーストックが生み出されているというわけです。

世の中のお金の量を測る指標

では実際に、金融緩和によってどれだけお金が増えたのかを見るには、どちらの指標を重視すべきでしょうか。

結論からいえば、「マネーストック」の方が、世の中にどれだけお金が回っているかを見るうえで適しているといえます。

その理由は、「マネタリーベース」だけでは、実際にどれだけ経済の中でお金が使われているかまでは分からないからです。信用創造によって、マネタリーベース以上のお金が民間で生み出されているためです。

つまり、金融緩和の効果を見るうえではマネーストックの推移が重要になります。一方で、マネタリーベースを見ると、中央銀行がどれだけ積極的にお金を供給しているかが分かります。

もしマネタリーベースが大きく増えているのに、マネーストックがあまり増えていないなら、それは供給されたお金が民間で十分に使われず、銀行の内部にとどまっていることを意味します。

世界各国のマネーストックの推移

では、世界各国でマネーストックがどのように変化してきたのかを見ていきます。ここでは主要先進国であるアメリカ、EU、日本のマネタリーベースとマネーストックを比較します。

アメリカのマネタリーベースとマネーストックの推移

出典:Fred Economic Research / Trading Economics

EUのマネタリーベースとマネーストックの推移

出典:欧州中央銀行データベース / Trading Economics

日本のマネタリーベースとマネーストックの推移

出典:日本銀行 / Trading Economics


これらのグラフから共通して読み取れることは、次の通りです。

  • 2000年代以降、マネタリーベースは急激に増えている
  • 一方でマネーストックは比較的なだらかに増えており、急変していない
  • マネタリーベースの急増、つまり量的緩和の効果は、そのままマネーストックには反映されていない

世界各国の中央銀行は、とくに2008年のリーマンショック以降、急速に悪化した経済状況を立て直すため、大量のお金を市場に供給しました。その動きがグラフにもはっきり表れています。リーマンショックについて詳しくは下記のリンクで解説しています。

リーマンショックの原因とは?サブプライム問題から世界金融危機まで解説

現在は景気が持ち直しているように見える局面もありますが、実際にはマネタリーベースは増え続けており、中央銀行が緩和をやめにくい状況にあることが見て取れます。

アメリカは一時的に金融引き締めへと向かいましたが、日本やユーロ圏、その他の先進国では、なお大規模な緩和を続けざるを得ない構造が続いています。

金融緩和・量的緩和の恩恵を受けるのは? メリット

では、金融緩和の恩恵を最も受けるのは誰なのでしょうか。アメリカの著名な投資家であるレイ・ダリオの記事でも指摘されている通り、最も恩恵を受けるのは信用力のある人たちです。

先ほど説明したように、中央銀行の金融緩和は次の2つの方法で行われます。

  1. 中央銀行が政策金利を引き下げる
  2. 中央銀行が市中銀行の国債を買い上げる

金利を下げることも、市中銀行に資金を供給することも、要するに「銀行が貸しやすくなる」ということです。しかし、貸しやすくなったからといって、銀行は誰にでも無条件で貸すわけではありません。銀行は依然として、信用力のある相手に優先して貸し出します。

信用力のある人とは、すでに資産を持っている人たちです。そして彼らは、その資金を日常の消費に回すというより、株式投資や不動産投資、M&Aなどの資産運用に使うことが多いのです。

つまり、お金を供給しても、すぐに消費へ回す低所得層には届きにくく、結果として「富める者がさらに富む」構造になりやすいのです。

それを示しているのが、マネタリーベースが大きく増えても、マネーストックがそれほど伸びていないという事実です。お金が銀行や資産家のところで滞留し、十分に循環していないことを表しています。

いわゆる「トリクルダウン」ですが、経済学では、その効果は限定的、あるいはほとんど起きないと考えられることが多いです。つまり、金融緩和をはじめとした金融政策だけでは、資産を持つ人を助ける効果が大きくなりやすいのです。

トリクルダウンとは?
トリクルダウン(trickle down)は浸透を意味する英語。トリクルダウン理論とは「富裕者がさらに富裕になると、経済活動が活発化することで低所得の貧困者にも富が浸透し、利益が再分配される」と主張する経済理論。

本当に世の中に出回るお金を増やし、景気を押し上げたいのであれば、金融政策だけでなく財政政策も一体で進める必要があります。

財政政策とは?
政府が公共事業や福祉に支出すること。失業保険や生活保護、そのほか公共施設の建設や道路の整備などに支出すること。

金融と財政を一体で進めようとしたのが、アベノミクスでした。

もっとも、財政政策も常に適切に行われるとは限りません。実際には、政治的な力関係や利害関係に左右されることもあります。アメリカでは、政策の多くが献金額の大きい層の意向に影響されるともいわれています。民主主義の限界を感じさせる部分でもあります。

まとめ

金融緩和について簡単にまとめました。金融緩和とは世の中のお金を増やすことであり、中央銀行がマネタリーベースを増やすことで行われます。

マネタリーベースを土台として、民間銀行は貸し出しや投資を行い、信用創造によってさらに預金を増やします。これがマネーストックです。実際に世の中にどれだけお金が回っているかを見るには、マネーストックを見るのが適切です。

しかし、マネーストックが増えていたとしても、その恩恵が広く国民全体に行き渡るとは限りません。金融政策だけでは、資産を持つ人がより有利になる傾向が強いからです。だからこそ政府は、適切な財政支出も組み合わせながら政策を進める必要があります。

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