10分でわかるミクロ経済学 – 需要曲線や供給曲線をわかりやすく解説

ミクロ経済学は、マクロ経済学に並ぶ近代経済学の主要な分野です。

研究対象は「経済活動の最小単位」である「取引」です。つまり、生産者が商品を作り、その商品を消費者が消費する、という一連の取引を研究対象としています。

この記事では、ミクロ経済学の基礎を20枚以上の画像を使って誰でもわかるように解説します。なお経済の前提知識はいりません。

より大きな経済単位を考えるマクロ経済学という領域もあります。マクロ経済学については下記のリンクで解説しています。

10分でわかるマクロ経済学 – 財市場、貨幣市場、労働市場をわかりやすく解説

経済学全体についてざっくりと理解したい方は下記のリンクで解説しています。経済学を俯瞰することで、よりこの記事の理解が深まります。

わかりやすい経済学 – 古典経済学から近代経済学まで10分でざっくり解説

ミクロ経済学の概略

ミクロ経済学は、消費者、生産者の希少な資源の最適な分配について研究しています。

少し難しい言い方ですが、「我々個人は、お金をどのように使うのが最適なのか?」また「企業は製品をどの程度作り、供給すれば最適なのか?」を研究する学問です。

つまり、「需要曲線と供給曲線が交わる点が最適価格である」というアダム・スミスの見えざる手が基礎となる理論を、より詳細に分析し解明していこうという学問です。

 

5分でわかるアダム・スミスの国富論(諸国民の富)- わかりやすく要約

ちなみに「ミクロ経済学」発展の基礎を築いたのは経済学の父とも呼ばれる「アルフレッド・マーシャル」です。彼の書いた「経済学原理」では、アダムスミスなどの「古典派経済学」を「数学」を用いて体系化し、思想的・哲学的だった経済学を、理論的で「使える」経済学へと押し上げました。彼の功績は偉大です。

5分でわかるマーシャルの経済学原理 | 新古典派経済学の始まり

消費者理論: 需要曲線の導出

消費者理論では、よく知られる「需要曲線」について考えていきます。

需要曲線とは、横軸に数量(Q)、縦軸に価格(P)とした時に、右肩下がりになるグラフです。

なぜ右肩下がりなのでしょうか

直感的には、「価格が安ければたくさん買えるよね」「価格が高ければあまり買えないよね」「それなら右肩下がりでしょう」と理解できると思います。

しかし、この消費者理論の項では「効用」を用いて、この直感を論理的に理解していきます。

効用関数

効用とは、財(商品)を消費した時の満足度です。

効用とは、財(商品)を消費した時の満足度

効用関数は、「横軸に数量(x)」「縦軸に効用(U)」として、それらを線で結んだ関数のことです。

下記のグラフのように表現できます。

このグラフからわかることは下記の2点です。

  1. 消費する数量が増えれば、効用も増加していく
  2. 効用の増加量は徐々に減少する 

.については直感的に理解できると思います。ゲームソフトを1本買うのと2本買うのでは、2本買えた方が効用は高いですよね。しかし、.の通り、この効用の増加は減少します。その理屈を理解するには「限界効用」を理解する必要があります。

限界効用

効用関数のグラフの傾きを「限界効用」といいます。傾きは関数を微分することで求められます。

この「傾き」は、財の単位を1単位増やしたときに、増える効用のことです。

限界効用逓減の法則

効用は、単位数を増やせば増やすほど、効用の増加率(つまり限界効用)は、下がっていきます。

例えば、カバンを一つ持っていて、二つになる効用の増加率と、カバン100個持っていて、101個になる効用の増加率では後者のが小さいはずです。

効用の増加は、いくら消費数を増やしたところで限界があります。この法則を「限界効用逓減の法則」と呼びます。

 

無差別曲線

効用関数は、1つの財(商品)に着目しました。しかし、世の中には複数の財(商品)が存在しています。そのため、より現実に則した分析をするには、複数の財に対しての効用も考える必要があります。

それを表現したのが無差別曲線です。

名前は分かりにくいのですが、簡単に言うと、同じ効用を得られる二つの財(財Xと財Y)の量を結んだ曲線です。下記のようなグラフになります。

例えば

  • 「財X1個」と「財Y2個」を消費した際に得られる効用
  • 「財X2個」と「財Y1個」消費した際に得られる効用

これら2つの効用が同一なら、それら2つの点を結びます。それを結んだ線が「無差別曲線」というわけです。

限界代替率(MRS

限界代替率は、財Xを一単位増やした時の、財Yの増加値です。無差別曲線の傾きで表されます。

「ワインを財X」「ビールを財Y」とすると、ビールを一単位増やした時に、効用が一致する「ワインの減少値」が限界代替率です。簡単に言うと、どれだけ替えが効くかと言うことを表します。

限界代替率逓減の法則

限界代替率逓減とは、ある一方の財を増やしていくと、もう一方の財で代替できるには限界があるという理論です。

ワイン5本とビール5本と同じ効用が、ワイン1本とビール9本となるでしょうか?

両方合計10本ですが、効用は後者の方が下がるはずです。つまりある一定までは財Xと財Yは代替がききますが、一定の水準までくると替えが効かなくなります。これを限界代替率逓減の法則と呼びます。

予算制約線

2つの財の最適なバランスを見てきましたが、実際には無限に財を購入することはできないので、予算の制約があります。それを表したグラフが予算制約線です。

予算制約線は、

  • 予算:M
  • 財Xの価格: Px
  • 財Yの価格:Py

とした場合に、購入できる限界数量の直線です。x軸の切片がM/Px、y軸の切片がM/Pyで表されます。それら2つを結んだ直線が予算制約線です。

「予算制約線」に「無差別曲線」を加えると下の図のようになります。

つまり、財Xと財Yの無差別曲線と、予算制約線が交わる点が、効用が最大になる財のバランスだと言うことです。

この値を「最適消費点」といいます。またこの時、効用が最大化する条件は「価格比=限界代替率」となる時です。

需要曲線の導出:価格の変化

財X、財Yの価格が変化すると、予算制約線が変化していきます。

財Xの価格が高くなった場合、予算内で変える数量が少なくなるので、予算制約線は左にずれます。すると無差別曲線が原点に向かって動き、新しい最適点が生まれます。

MEMO
なぜ無差別曲線が、原点方向に向かって動くのかというと、この曲線はあくまで2つの財のバランスを表しているグラフだからです。そのため予算の制約の中で、バランスを維持した形で原点方向にスライドします。

もうお分りいただけたかと思いますが、この最適価格を結ぶと需要曲線が完成します。xの購入数量を変化させた時の、効用を最大化する最適価格を結んでいくことで、需要曲線が表現できました。

消費者理論まとめ

ここまで消費者理論をまとめましたが、長くなりましたので再度まとめると、

  1. 効用関数は1種類の財の消費量と効用の関係を表した。
  2. 無差別曲線は2つの財の効用が最大化する最適なバランスを表した。
  3. 予算制約線と無差別曲線を結ぶことで最適消費点が求められる。
  4. 財の価格を変化させることで予算制約線が変化し、最適消費点も変化する。
  5. それらの最適消費点を結ぶと需要曲線となる。

お分りいただけたでしょうか?消費者理論は非常にシンプルで美しいです。複雑さは特にありません。



生産者理論: 供給曲線の導出

生産者理論では、供給曲線について考えます。

価格が高ければ生産者はより供給したいと考えるため、生産量が増えます。逆に、価格が安ければ作っても儲けが少ないので作りません。感覚的には理解できるこの論理を、より詳細に考えていきます。

総費用曲線

総費用曲線は、横軸に数量(Q)縦軸に総費用(TC)として描いた曲線です。この曲線は「逆S字カーブ」を描きます。

その理由は、さあ生産を始めましょう、という時にはコストは多くかかりますが、しばらくすると効率的に生産できるようになるからです。しかし一定規模まで拡大すると、生産を拡大するのにコストがかかるようになります。

ラーメン屋で考えてみましょう。ラーメン屋を始めようとすると、設備費用など最初は何かと固定費(FC)がかかります。

しかし、一定の設備を揃えてしまえば、そこから総費用(TC)の増加はおさまります。しかし、1店舗で生産するには限界があります。いずれ店舗を増やさなくてはいけません。たくさんの店舗をまとめないといけませんから人件費などの可変費用(VC)がかかってきます。

このように生産過程においては一般的には逆S字カーブを描くと言われています。

限界費用(Marginal Cost: MC)

限界費用とは、生産を一単位増やした場合に増加するコストです。総費用曲線を微分することで求められます。

考え方は限界効用と同じです。限界費用はMarginal Cost、MCと略されます。

MEMO
限界効用、限界費用など、限界〜という言葉が多く使われているのが経済学をややこしくしているように思います。限界は、marginalで隣接の方が意味としては正しいです。一単位あたり増やした時に増える効用や費用、つまり隣接する効用や費用という意味です。

利潤最大化の条件

完全競争市場では、商品の価格は、一企業の生産量には関係せず、市場が決定します。これをプライステーカーの仮定と呼びます。

その時、生産者が利潤を最大化する条件は、P(価格)= MC(限界費用)となります。つまり完全競争市場においては、P=MCが必ず成立します。

つまりどういうことか?あなたがパン屋さんで食パンを製造しています。食パン一斤の生産を増やした際に、追加でかかる費用が限界費用(MC)です。仮に食パン一斤の追加で、費用が追加で10円かかるとします。その時の、食パンの市場価格が100円であれば生産を増やしますよね?

では、食パン一斤の生産を増やすと、製造コストが100円追加で増えるとします。市場の値段は100円なので、製造を増やしたところで全く利潤は増えません。つまり、市場の価格によって限界費用が決定し、最適な生産量が決定します。すごく当たり前ですよね。

損益分岐点と操業停止点

次は生産者が生産を止める瞬間はいつなのかを考えていきます。

限界費用(MC)は、一単位あたりの生産を増やした時のコストです。はじめのうちは限界費用は高いですが、加速度的に低下します。そして、ある点で折り返して限界費用(MC)は増加します。

総費用曲線は逆S字カーブを描きますが、その曲線の傾きを辿ることで、限界費用曲線を導くことが可能です

平均費用と平均可変費用

平均費用(AC: Average Cost)は、一単位あたりの生産に必要な費用です。ACは、はじめのうちは減少していきますが、その後、緩やかに上昇します。

例えば、カレー屋さんを1人で経営し、家賃が1万円だとして、1日一杯しか売れなかったら、カレーの価格は一万円です。しかし、二杯作ることができれば価格は半分の5000円になります。加速度的に価格は下がります。

順調にお客を伸ばし、5人でカレーを一日100杯作れるようになった、6人に増やしたら120杯作れて20杯増えた。では7人にしたら140杯作れるだろうか?

設備には限りがありますし、スペースも限られています。もしかしたら130杯程度しか作れないかもしれません。このように、どこかを境にコストが下がりにくくなります。

次は、平均可変費用(AVC)についてです。平均可変費用(AVC)は固定費を除いた、平均費用(AC)です。

固定費の代表例は家賃ですね。平均可変費用(AVC)は、製造するために消費する費用、つまり原材料費や人件費のことを言います。限界費用MC、平均費用AC、平均可変費用AVCを1つのグラフにまとめると下の図のようになります。

損益分岐点

ACとMCとの交点が、損益分岐点となります。なぜでしょうか?

限界費用(MC)は、価格が与えられた(所与の)時の最適な生産量のグラフです。価格は市場によって決まることをプライステーカーと言いました。

平均費用(AC)は、生産数量とコストの関係です。仮に市場価格が100円だとしたら、ACは、90円ですので10円分の利益があります。

もし市場価格が90円だとすると、MCとACが完全に一致します。価格もコストも同じ90円ですから利益がゼロです。よってMCとACが交わる点が損益分岐点となります。

操業停止点

平均可変費用(AVC)は、固定費を除いた平均費用です。AVCとMCの交点は操業停止点です。なぜでしょうか?

AVCを下回ると生産するたびに損失が出るからです。AVCは一単位生産するために必要となるコストです。それすら上回らなければ、生産すればするほど損失が増えていきます。よって、操業停止点となるんです。

供給曲線の導出

ここまで来てようやく供給曲線が導出できます。供給曲線は「生産量」と「価格」の関係を表したグラフですから、限界費用曲線が供給曲線となります。

しかし実際には、「操業停止点」以下は生産を行わないため、操業停止点より上の曲線が「供給曲線」となります。

生産者理論まとめ

生産者理論(供給曲線の導出)を解説しました。まとめると下記の通りです。

  1. 総費用曲線は、逆S字カーブを描く。
  2. 総費用曲線の傾きは、限界費用(MC)と呼ぶ。
  3. 限界費用(MC)は、一単位生産を増やしたときに増えるコスト。
  4. 完全競争市場が成立する時、限界費用(MC)=価格(P)の時、生産が最大化する。
  5. 損益分岐点は、限界費用曲線(MC)と平均費用曲線(AC)が交わる点である。
  6. 操業停止点は、限界費用曲線(MC)と平均可変費用曲線(AVC)が交わる点である。
  7. 供給曲線は、平均可変費用曲線と限界費用曲線(MC)が交わる点の上側の曲線で表される。

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まとめ

ミクロ経済学における、消費者理論と生産者理論を解説し、需要曲線がなぜ右下がりで、供給曲線がなぜ右上がりなのかを解説しました。

この記事では、ミクロ経済学を学んでいく上で基礎となる最も重要な考えに絞って解説を行いました。この考えが基礎となり、近代経済学の多くが発展を遂げました。経済学に興味を持つきっかけになっていただければ幸いです。

ミクロ経済学は、個人は効用を最大化するために合理的な行動を必ずするものだとして分析しています。現代経済学では必ずしも人々は合理的な行動ができないとして、「行動経済学」という分野が発展してきています。

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なお、ミクロ経済学やマクロ経済学と対をなす考え方として、マルクスの「資本論」があります。最近になって見直されてきている考え方です。下記のリンクで解説しています。

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