この記事では「自由主義」について、分かりやすく解説します。自由主義という言葉は、政治や経済の世界でよく使われますが正確に理解している人は少ないです。
この記事を読めば、自由主義の歴史を含めた全体像を理解することかできます。なお専門的な知識は必要ないよう噛み砕いて説明します。また、混同されがちな「自由主義」と「民主主義」の違いについても解説します。
自由主義とは何か?
自由主義とは「個人の自由な活動を重んじる思想」です。
英語ではリベラリズムと呼びます。語源は2つあり、liberal(自由な)やliberty(自由)など「自由」を意味するものと、liberate(解放する)、liberator(解放者)、liberation(解放)という「解放」を意味するものがあります。
どちらにせよ、この思想は、自由で解放された状態を理想とする思想です。つまり、社会的・政治的・経済的に個人が制約されたり、抑圧されたりしない状態にすべきだとする思想です。
自由主義の構成要素
自由主義は個人が抑圧されない、自由な活動を重んじる思想だということは理解できました。多くの記事ではここで理解がストップしてしまうのですが、より詳しく見ていきます。
自由主義を深く理解するには、自由主義を構成する要素を知る必要があります。重要な構成要素は大きく下記の2つです。
- 民主主義
政治的な自由主義 - 資本主義
経済的な自由主義
まず❶. 民主主義についてですが、これは政府からの自由を実現するために必要な制度です。
独裁政治や君主政治は、独裁者や権力者によって個人の自由が制限されます。民主主義は、為政者を国民が選ぶことによって、政府からの自由を実現しています。
次に❷. 資本主義ですが、これは自由な経済活動を実現するために必要な制度です。
計画経済では、個人は自由な生産活動を行うことが認められていません。個人がクリエイティビティを発揮して、作りたいものを作る、売りたいものを売ることを実現する仕組みが資本主義です。
これら以外にも自由主義を支える制度は存在しますが、最も大きな影響を与え、自由主義を規定しているのは「民主主義」と「資本主義」です。
自由主義の歴史
今では当たり前となった自由主義ですが、この思想が一般に浸透するには長い時間が必要でした。
先ほど説明した通り❶. 民主主義(政治)と❷. 資本主義(経済)の2つの側面でどのように自由主義が広がったのか見ていきます。
❶. 民主主義:自由主義的な政治
自由主義の基礎を築いたのは「ホッブス」という哲学者です。ホッブスは「人間は生まれながらに生きる権利があり、生命を尊重されるべきである」と述べました。
当たり前じゃないか?と思われるかもしれませんが、当時のイギリスは絶対王政で、市民の権利は貴族のものでした。貴族が庶民から資産を没収したり、生命を脅かしたり、なんでもござれ、やりたい放題でした。よく中世の映画で描かれたりしますよね。
そんな中で、ホッブスは「国民はみんな生きる権利を持っているぞ」と提唱しました。今では当たり前のことですが、「なぜ国民は生きる権利があるのか」を論理的に体系的に説明しました。
詳しくは彼の有名な著書「リヴァイアサン」で解説されています。
10分でわかるホッブスの「リヴァイアサン」 – 思想をわかりやすく解説
ホッブスの次に出てくるのはジョン・ロックです。ホッブスは、理想を掲げたのはよいけれど、政治をどんな形にしたら、彼の理想は実現できるのだろうかと考えました。
5分でわかるジョン・ロックの「統治二論」要約。自然状態や所有権も解説ロックは、ホッブスの主張を拡張して、議会制民主主義の基本的な考えを提唱します。議会制民主主義とは簡単に言うと、「政治を行う人は国民が決めましょう」ということです。こうして、ホッブスの自由主義は、ロックによってより具体化されて政治制度に組み込まれていきます。
これらの民主主義の発展の歴史をより詳しく知りたい方は、下記のリンクで詳しく解説しています。民主主義の成り立ちを理解することができます。
10分で分かる民主主義 – わかりやすく歴史や日本でいつから始まったのかを解説❷. 資本主義: 自由主義的な経済
政治については、ロックによって自由主義的な民主主義という制度が確立していきます。では経済はどうでしょうか?
商売を政府に制限されては、自由主義的と言えません。そこに登場するのがアダム・スミスです。
アダム・スミスは自由放任でマーケットに任せておけば「見えざる手」によって最適化され、全てうまくいくと考えました。失業の問題も貧困問題も全てマーケットに任せようと考えました。
アダムスミスについてより詳しく知りたい方は下記のリンクで解説しています。
5分でわかるアダム・スミスの国富論(諸国民の富)- わかりやすく要約この考え方は多くの支持を集めて、「民主主義」と「資本主義」という2つの思想は、世界各地へと広がり市民革命へとつながっていきます。
ちなみに、資本主義と同様に発展した思想に「社会主義」と「共産主義」があります。詳しくは下記のリンクで解説しています。
10分でわかる社会主義と共産主義の違い – わかりやすく解説近代自由主義とは何か
アダムスミスのように、マーケットに任せたら全てうまくいくと言う考えは古典的自由主義と呼ばれます。
しかし、現代ではマーケットに任せきりでは、貧困や失業が避けられず、政府がマーケットに介入すべきだという考えが主流です。例えば福祉を充実させたり、公共事業を行うことです。
近代自由主義は経済学者のケインズによって確立しました。
ケインズの考え方について詳しくは下記で解説しています。
5分でわかるケインズの雇用・利子および貨幣の一般理論 | ケインズ経済学の基礎近代自由主義は、政府の介入を許容する考えですが、これも自由主義に分類されます。マーケットに任せきりでは、貧困や失業が生まれ、かえって個人の自由を阻害することになると考えます。適切に政府が介入して、個人の自由を拡大するのを良しとしています。
新自由主義とは何か?
新自由主義という言葉も存在しますが、自由主義とは異なります。新自由主義は、フリードマンによって提唱されました。
この考え方は、近代自由主義的な政府が積極的に介入することを否定して、自由放任にすべきという考え方です。まさに、アダムスミスの考えに戻ってしまっています。
当時のアメリカでは、政府が積極的に経済に介入するあまり借金が膨れ上がり財政破綻に陥りそうになっていました。そこで、アダムスミス的な自由放任で政府の役割は最小限にしようという考えが生まれました。
詳しくは下記のリンクで解説していますが、新自由主義はノーベル経済学賞を受賞し、日本を含めた先進国で生かされました。しかし、新自由主義によって格差が拡大したと言われています。
5分でわかるフリードマンの「資本主義と自由」- 新自由主義をわかりやすく解説自由主義と民主主義や違い
自由主義と民主主義の違いについて、よくわからないと言う人が多いですが、ここまで読まれた方は理解できているでしょう。
- 自由主義は「個人の自由を保障する思想そのもの」
- 民主主義は「自由主義的な政治制度」
ということです。
先ほども説明したように、資本主義は「自由主義思想を実現する経済体系」を指します。
まとめ
自由主義についてまとめると下記の通りです。
- 自由主義は個人の自由な活動を重んじる思想
- 自由主義は民主主義と資本主義によって支えられている
- 民主主義は自由主義的な政治体系で、資本主義は自由主義的な経済体系である
- これら2つによって近代国家の自由は保障されている
これら思想は当たり前のように見えますが、ロックやホッブス、アダムスミスなどによって理論化され、市民革命を起こしながら発展してきました。この記事を読み、曖昧だった自由主義の概念の理解が深まれば幸いです。