ホッブスのリヴァイアサンをわかりやすく解説|自然状態・自然権・社会契約の要点

トマス・ホッブスは、ジョン・ロックやルソーと並ぶ、有名な政治哲学者です。

彼の思想は、後の市民革命や近代政治思想に大きな影響を与えました。民主主義の原点の一つとして語られることもあります。

この記事では、ホッブスの代表作『リヴァイアサン』をできるだけわかりやすく解説します。一見すると複雑ですが、考え方の骨格は非常にシンプルです。

トマス・ホッブスとは?

トマス・ホッブスは、17世紀に活躍したイングランドの哲学者です。

「哲学者は何を研究しているのか?」と思う人もいるかもしれませんが、哲学者は、ものの考え方の根本を考える人たちです。

たとえば私たちは、「人を差別してはいけない」「人を傷つけてはいけない」と当たり前のように考えています。しかし、そうした価値観は、生まれつき自然に備わっているとは限りません。

原始的な状態の人間であれば、差別もするし、人を殺すかもしれません。それでも私たちがそうならないのは、何らかの「ものの考え方の根本」が、社会の中で共有されているからです。

哲学とは、たとえば「人を殺してはいけないのはなぜか?」を根本から考え、それを体系化していく学問です。

ホッブスは、とくに政治哲学において大きな功績を残しました。彼は「政治はどのような形が理想なのか」「なぜ国家は今の形になっているのか」を徹底的に考え抜いた人物です。

リヴァイアサンとは?

『リヴァイアサン(Leviathan)』とは、ホッブスが著した政治哲学書です。1651年に刊行されました。題名は旧約聖書に登場する海の怪物に由来しています。

正式な題名は、“Leviathan, or The Matter, Forme, and Power of a Common-wealth Ecclesiasticall and Civil” です。日本語にすると、おおよそ「リヴァイアサン、すなわち教会的・市民的国家の素材・形態・権力について」となります。

つまり、この本のテーマは「国家とは何によって形作られているのか」を理論立てて考えることにあります。

ホッブスは、この問いを突き詰めることで、国家の理想的なあり方を考えようとしました。

人間本性 まずは人間について考える

ホッブスは、国家のあり方を考える前に、まず「人間本性」について考えました。

ここでいう「人間本性」は、日常で使う意味とは少し違います。この記事では、その点も整理しておきます。

まず、当時の哲学はキリスト教世界と深く結びついていました。これが、日本人にとって哲学が難しく感じられる大きな理由の一つです。

詳しくは下記の『反哲学入門』にも書かれています。この本を読むと、政治学や経済学を含め、多くの理論がすっきり理解しやすくなります。哲学は多くの学問の土台になっているからです。

木田 元 (著)

話を戻すと、キリスト教世界では、生まれたままの人間は「不完全な存在」だと考えられていました。人は裏切りもするし、人も殺すし、未熟な状態にあると想定されていたのです。

それに対して、神であるキリストは「完全な存在」と考えられます。完全であるからこそ、人を殺さず、人を愛し、善く振る舞えると考えられていました。

こうした「完全で理想的な心」は、ここでは理性と呼ばれます。ただし、日本語の日常感覚でいう「理性的」とはかなり違います。キリスト教世界での理性は、神に属する理想的な在り方に近いものです。

ホッブスは、人間の本性は当然ながら「不完全」であると考えました。つまり、人間は理性によって動く存在ではなく、本能的な意志に従って動く存在だとしたのです。

ホッブスの出発点は、「人間の本性は、本能的な意志に従う」という理解にあります。

自然状態 人間は本性に従うとどうなるか

ホッブスは、人間は理性的に行動するのではなく、本能的な意志に従うと考えました。

では、人間が本能に従って行動するとどうなるのか。ホッブスは「争いが起こる」と考えます。

人は自分の財産や食料を守り、生命を維持しようとします。しかし、世の中の資源や財産は有限です。そのため、奪い合いが起こると考えたのです。

では「本能を抑えればよいのでは?」と思うかもしれませんが、ホッブスはそう考えません。なぜなら、人間は自分の生命を維持するという究極の権利を持っているからです。

これを自然権と呼びます。人間は生まれながらにして、生き延びようとする権利を持っています。だからこそ争いを避けられないと、ホッブスは考えました。

人間は本能的に「生きよう」とするようにできています。死は人間にとって最大の恐怖です。したがって、自然権を持つ人間同士が放っておかれれば、争いは避けられないというのがホッブスの結論でした。

社会契約 契約を結ぶことで国家が生まれる

ホッブスは、人間は自然権を持つ以上、争いは避けられないと考えました。そのままでは「万人の万人に対する戦争」にまで発展してしまうと説きます。

ところが、戦争が起こると、人は自分の自然権を守ろうとするあまり、逆にその自然権が侵されてしまいます。これでは社会を維持できません。

では、この状態からどう脱するのか。ホッブスは、個人が自然権を国家(=リヴァイアサン)に譲渡すればよいと考えました。

表紙の絵はリヴァイアサンを表す
国民一人一人の集合体で神話の巨人が形作られている

その代わりに、国家と国民は社会契約を結びます。社会契約とは、自然状態で起こりうる争いを抑え、自然権を守るという契約です。

つまり国家の権力は、国民の自然権の集合だということです。国民は自然権を完全に捨てるのではなく、国家へ預けるようなかたちで譲渡しているにすぎません。

そして、国家権力(=コモンパワー)を行使するのは、国民の代表者・代理人であるべきだというところまで、ホッブスは踏み込んでいます。

これが、ホッブスが民主主義の源流の一人とみなされる理由です。この考え方は、近代民主主義へとつながっていきます。

民主主義の歴史については、下記の記事で詳しく解説しています。

民主主義とは何か?意味・歴史・仕組みをわかりやすく解説

まとめ

ホッブスの著書『リヴァイアサン』は、近代民主主義の発展に大きな影響を与えました。キリスト教的な世界観の上に成り立つ思想ではありますが、その中に非常に近代的な発想が含まれています。

当時のイングランドでは、キリスト教が絶大な権威を持っており、それに逆らう思想は危険視される時代でした。ホッブスは、そうした宗教的世界観とうまく折り合いをつけながら、国家と契約の理論を組み立てたところに大きな功績があります。

もしホッブスの功績がなければ、近代民主主義の形成は今とはかなり違ったものになっていたかもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください