MMT(現代貨幣理論)は、2019年1月にアメリカ史上最年少で連邦議会議員となったアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員が支持を表明したことで、大きな話題となりました。
アメリカで大論争を巻き起こしたMMTですが、日本にもその議論が飛び火しています。その理由は、日本政府の政策運営がMMT的ではないか、と指摘されているためです。
この記事では、MMT(現代貨幣理論)についてわかりやすく解説します。金利や債務など複雑に見える部分も、誰にでも理解できるように整理していきます。
2019年5月には、ブリッジ・ウォーター・アソシエイツの代表であり著名な投資家でもあるレイ・ダリオが、政府がMMTへ向かうことは「避けられない」とする記事を寄稿しました。下記のリンクで詳しく解説しています。
MMT(現代貨幣理論)とは何か?
現代貨幣理論とは、簡単に言えば「政府は国債をいくらでも発行してよい」という考え方です。
国債は国の借金です。つまり、MMTは「国は必要ならいくらでも借金をしてよい」とする、非常に大胆な理論だと言えます。
- 日本は財政赤字が●兆円で、税金を増やさなければならない
- 政府赤字がGDPの2倍で危険だ
といった議論がよくなされますが、MMTはそうした発想そのものを根本から問い直す理論だというわけです。
国は借金をして何をしているのか?
MMTは「国はいくらでも借金してよい」とする理論ですが、そもそも国は借金をして何をしているのでしょうか?
政府は国債を発行して資金を調達し、そのお金を使って財政政策を行っています。財政政策とは、公共事業を行ったり、社会保障を充実させたり、補助金を出したりすることで、経済を刺激する政策のことです。
たとえば、政府が公園や高速道路を整備すれば、建設業などに雇用が生まれます。
このように、政府が積極的に支出を増やして公共事業などを行えば、多くの雇用を生み出し、景気を押し上げることができます。

財政政策で何が起こるのか?
政府が積極的に借金をして財政政策を行えば、景気は刺激されます。つまり、一般的には「インフレ」が起こりやすくなります。
政府や中央銀行が目標とする物価上昇率は2.0%です。国際的にも、概ね2.0%前後が望ましい水準とされています。

インフレとデフレについて詳しく知りたい方は、下記のリンクで解説しています。
物価上昇2%目標の理由
なぜ世界的に見ても、物価上昇率2%が目標とされているのでしょうか?
その理由は、適度な消費を促すためです。
逆に、物価が上昇せず下がり続ける状況を考えてみましょう。
たとえば住宅を買おうとしている人が、「来年には5%安くなるかもしれない」と思えば、今は買わずに待とうと考えますよね。
物価下落局面では、多くの人が買い控えるようになります。買い控えが起これば、さらに物価は下がります。物価がさらに下がれば、もっと多くの人が購入を先送りするようになります。
この悪循環を「デフレスパイラル」と呼びます。日本も長らくこの状態に苦しんできました。

一方で、物価が2%程度の緩やかな上昇を続けていれば、適度な消費が生まれ、経済は安定しやすくなります。
今買おうとしている住宅が来年少しだけ上がるなら、「今買っても損ではない」と思いやすくなります。この「消費を先送りしにくいちょうどよい水準」が、おおむね2.0%と考えられているのです。
逆に、10〜20%近く上昇するようなハイパーインフレになると、今度は値上がり期待が強すぎて過剰な消費や投機が起こり、バブルの原因になります。日本のバブル経済も、過剰な資産価格の上昇と深く結びついていました。
ハイパーインフレが起こる原因や対策について詳しく知りたい方は、下記のリンクで解説しています。
MMT(現代貨幣理論)の条件
MMTが成り立つためには、いくつかの条件があるとされています。
- 自国通貨を自国の中央銀行が発行できる、日本やアメリカのような国にしか適用できない
- 過剰なインフレに陥らない限り、国債をいくら発行しても構わない
つまりMMTは、自国通貨を自国の中央銀行が発行できる国であれば、たとえ政府赤字が膨らんでも、新たな通貨を発行することで対応できると考えます。
また、政府が支出を増やしたとしても、過度なインフレが起きない限りは借金を続けても問題ないとします。
この立場からすれば、現在の日本は政府支出を増やしてもなおインフレ率2%に届いていないため、まだ財政拡大の余地がある、という結論になります。
MMT(現代貨幣理論)の経済学上の位置付けは?
MMT(現代貨幣理論)は、しばしば「とんでもない経済理論」と批判されます。しかし、経済学の大きな流れの中に位置づけると、そこまで突飛なものではないことも見えてきます。
経済学全体の流れについては、下記のリンクで詳しく解説しています。
経済学には、大きく分けて3つの流れがあります。
- 古典経済学派と近代経済学
ミクロ経済学として体系化 - ケインズ経済学
マクロ経済学として体系化 - マルクス経済学
順番に見ていきます。
❶. 古典経済学派と近代経済学
古典経済学と近代経済学は、アダム・スミスの思想から始まります。
「見えざる手」という言葉に象徴されるように、政府はできるだけ市場に介入せず、市場メカニズムに任せておけば、資源配分は自然に最適化されるはずだという考え方です。
下記でアダム・スミスの『国富論』について詳しく解説しています。
後にこの考えはミクロ経済学として体系化され、人々が自由意志に従って最適な行動をとれば、市場全体もうまく機能するのだから、政府は余計な口出しをしない方がよい、という方向へ発展していきました。
❷. ケインズ経済学

ケインズ経済学は、簡単に言えば、不況時には政府が積極的に市場へ介入し、景気をコントロールすべきだという考え方です。
下記のリンクでケインズ経済学を詳しく解説しています。
ケインズ経済学が実際に活かされた代表例として、アメリカのニューディール政策があります。
大恐慌期のアメリカでは、国民生活が危機的な状況に陥り、餓死者まで出るほどでした。そのような中で、政府主導の大規模な公共事業を行うことで雇用を生み出し、経済を立て直したのです。
❸. マルクス経済学

マルクス経済学は、皆さんご存知の通り、社会主義経済の理論的基礎となったものです。この流れは、ロシアなどで大規模な実験が行われた結果、その問題点も明らかになり、現在では主流派経済学の中心ではなくなっています。
そのため、現代経済学の大きな対立軸は、❶. 近代経済学と❷. ケインズ経済学のあいだにあると言ってよいでしょう。
マルクス経済学について知るには、マルクスの『資本論』が参考になります。下記のリンクで詳しく解説しています。
この3つの大きな流れの中で、MMTがどこに位置づくかと言えば、明らかに「❷. ケインズ経済学」の系譜に属します。
政府が大胆な財政支出を行うことで経済を刺激すべきだ、という考え方だからです。ただし、ケインズ経済学とMMTには大きな違いがあります。それは、MMTが「政府は基本的にいくらでも借金してよい」と考える点です。
ケインズは、不況時には大胆に政府支出を増やすべきだが、景気が回復して軌道に乗ったら、増税などによって赤字を埋めるべきだと考えていました。
- ケインズ経済学
不況時には大胆に政府支出を行い、雇用を生み出して経済を刺激する。ただし、景気が安定したら税収などで赤字を埋めるべきだ。 - MMT(現代貨幣理論)
過度なインフレにならない限り、政府は借金をして支出を増やし続けてもよい。
MMT(現代貨幣理論)への多くの批判
MMTに対しては、多くの経済学者が批判を加えています。
たとえば、ノーベル経済学賞受賞者でもあるクルーグマンは、次のように批判しています。
「債務については、経済の持続可能な成長率が利子率より高いか低いかに多くを左右されるだろう。もし、これまでや現在のように成長率が利子率より高いのであれば大きな問題にならないが、金利が成長率より高くなれば債務が雪だるま式に増える可能性がある。債務は富全体を超えて無限に大きくなることはできず、残高が増えるほど、人々は高い利子を要求するだろう。つまり、ある時点において、債務の増加を食い止めるために十分大きなプライマリー黒字の達成を強いられるのである。」
ポール・クルーグマン(ニューヨーク州立大学、経済学者)
2019年2月12日 ニューヨークタイムスへの寄稿
次は、パウエルFRB議長の批判です。
「自国通貨で借りられる国にとっては、赤字は問題にならないという考えは全く誤っている(just wrong)と思う。米国の債務は国内総生産(GDP)比でかなり高い水準にある。もっと重要なのは、債務がGDPよりも速いペースで増加している点だ。本当にかなり速いペースだ。歳出削減と歳入拡大が必要となるだろう。」
ジェローム・パウエル(FRB議長)
2019年2月26日 議会証言
著名な経済学者ロバート・シラーの批判もあります。
「パウエル議長が(議会証言で)受けた質問にMMTについてのものがあって、これは最近出てきたスローガンだ。もしも大衆が望むなら、政府はどこまでも財政赤字を無限に続けられるというものだと思うが、これはこのタイミングで出てきた悪いスローガンだと思う。一部の人々にとって政治的には有用なものだ。」
ロバート・シラー(イェール大学、経済学者)
2019年2月26日 ヤフーファイナンスインタビュー
MMT(現代貨幣論)はとんでもない理論なのか?
MMTは、経済学の大きな流れから見ると、ケインズ経済学をさらに大胆に押し進めた理論だと言えます。
極端に見える理論ではありますが、多くの点ではケインズ経済学と共通しています。
ただし、決定的に異なるのは、ハイパーインフレにならない限り、政府はいくらでも借金をしてよいとする点です。
MMT支持者が政府の借金を問題視しないのは、自国通貨を発行できる国であれば、万一の場合は中央銀行が新たに通貨を発行し、そのお金で国債を買えばよい、と考えているからです。
しかし、ここには大きな論点があります。
三井住友DSアセットマネジメントの記事にもあるように、国債を中央銀行が直接引き受けて市場へ資金を供給することは、日本では財政法第5条によって原則禁止されています。
このような中央銀行による直接引き受けは「財政ファイナンス」と呼ばれますが、これが制度的に認められない限り、MMTの完全な実行は難しいということになります。
つまり、国債の購入は基本的に民間銀行や投資家が担い、中央銀行は民間が保有する国債を買い入れる形しか取れません。
民間銀行による国債購入は、最終的には国民の貯蓄によって支えられることになるため、政府が借金をあまりに拡大すれば、金利が上昇せざるを得なくなるという問題が生じます。
まとめ
MMT(現代貨幣理論)は、とんでもない理論だと言われがちですが、実際にはケインズ経済学をさらに拡張したような理論だと言えます。
MMTの大きな問題点としては、中央銀行が新規通貨を発行して直接国債を購入することが制度上制限されている点です。MMT支持者が言う「中央銀行が通貨を発行して国債を買えばデフォルトしない」という理屈は、少なくとも現行制度のもとでは、そのまま成り立つわけではありません。ただし、ここではあくまで「現在の法制度の下ではMMTの全面的実行は難しい」と述べるにとどめます。
ちなみに、ブリッジ・ウォーター・アソシエイツの代表であり著名な投資家でもあるレイ・ダリオは、政府がMMTへと向かうことは「避けられない」と述べています。下記のリンクで詳しく解説しています。
中央銀行と政府が相互に牽制しながら財政運営を行う、いわば「監視型システム」が本当に最適なのかどうかは、今後も議論が続いていくはずです。下記リンクでは中央銀行の仕組みを詳しく解説しています。



MMTについて、良くわかりました。 ありがとうございました。 もし政府がしっかりコントロールできない国では、悪用されそうですね。 従って、MMTが有効とされるのは限られた国だけだと思います。
分かりやすい記事で良かったです。
ただ、一点
民間銀行が預金を使って国債を購入する、という部分は違うと思います。
この部分を勘違いしている人が多いですが、民間銀行が国債を購入する時は、信用創造での通貨発行ですから、通帳に数字が記載されるだけです。
預金者の預金には手を付けません。
国債か発行されれば、国民の預金は増える、データ的にもこれが正解だと思われますが。
MMTの大変分かりやすい解説ありがとうございます。日本でも、所得やインフラの地域格差の解消や生活環境の整備などに限り検討してもいいのではないかと思います。田中角栄の日本列島改造計画が実質的にこの趣旨に相当するのではないでしょうか。頻発では困りますが、インフレに留意しつつ政府で検討してもらいたいと考えます。