ハイエクは1899~1922年に活躍したオーストリアの経済学者です。ノーベル経済学賞を受賞しています。彼が書いた「隷属への道」は、当時のイギリスに対しての「警告の書」として書かれました。
この記事ではハイエクの「隷属への道」について10分で理解できるように解説します。ハイエクの「貨幣発行自由化論」について知りたい方は下記のリンクで解説しています。
5分でわかるフリードリヒ・ハイエクの「貨幣発行自由化論」| わかりやすく要約フリードリヒ・ハイエクとは?
ハイエクは、オーストリアの経済学者で「オーストリア学派」の代表的な人物です。オーストリア学派は「自由主義」を基本とする経済体系です。詳しくは下記で解説しています。
10分でわかるオーストリア学派の経済学 | 初心者にもわかりやすく解説
彼の思想はアダム・スミスを基礎とする「自由主義者」で、政府の役割は最小限に抑えて、市場に任せて経済活動を行うべきだという思想です。
「リバタリアニズム」とも呼ばれ、弟子には「新自由主義」のフリードマンがいます。
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彼の思想は、当時としてはかなり新しく、晩年にノーベル経済学賞を受賞するまでは、なかなか評価されず経済的にも非常に困窮していました。
当時のイギリスの状況
「隷属の道」が発表された当時は、イギリスでは「社会主義ブーム」が起きていました。「あの自由主義のイギリスで?」と思う方もいると思いますが、当時は社会主義の歴史はまだまだ浅く、新たな思想として多くの人に受け入れられていました。
とりわけ自由主義のアメリカは大恐慌が起き、ケインズ経済学を参考にした「ニューディール政策」を推し進めました。ケインズの考え方は下記のリンクで解説しています。
5分でわかるケインズの雇用・利子および貨幣の一般理論 | ケインズ経済学の基礎
このニューディール政策は、政府が大規模な公共工事を行うことで、経済を立て直そうとする政策です。この政策は、自由主義とは反対の「政府が市場を動かすこと」を積極的に行う政策のため、社会主義的な政策でした。
また、当時のドイツにおいても、社会主義体制によって大きく経済を立て直していました。
このようにアメリカとドイツの経済が好調な一方で、イギリスの経済は停滞していました。自由主義の先頭を走るイギリスの経済が陰りを見せていたわけです。当然のことながら世論も「自由主義」に懐疑的なひとが大多数を占めていました。
隷属への道とは?
従属への道は、このように社会主義を支持し始めたイギリスに対して警鐘を鳴らす書籍でした。
社会主義体制をとることで、国民の多くの自由が奪われ、社会主義はいずれ「独裁的なファシズム」に移行してしまうと説きました。
社会主義は計画経済によって、平等な社会を実現すると「理想」を掲げながら、人々の自由を奪うと痛烈に批判しています。
ファシズムについて詳しく知りたい方は、下記のリンクで解説しています。
10分でわかるファシズム ーなぜ誕生したのか?わかりやすく解説社会主義は自由をはき違えている
まず、ハイエクは社会主義者が掲げる「自由」の定義は誤っていると説きました。
原文では下記のように社会主義の自由について批判しています。
「自由」という言葉の意味のすり替えは、どんな主張でももっともらしく聞こえるようにするための手段として行われた。かつて、「自由」という言葉は強制からの自由、他者による支配からの自由、個人に望まない命令への服従を余儀なくさせる束縛からの自由を意味していた……しかし、新しい「自由」の意味するところは……「富の平等な分配」という古くからある要求の言い換えにすぎない。
つまり本来の自由とは、他者や政府や圧政からの「自由」を意味していたはずなのに、社会主義における自由は「貧困からの自由」という限定的なものに過ぎないと述べています。
社会主義によって、あたかも自由な世界を実現できるかのように宣伝するのは誤りであると説きました。
社会主義の計画経済は不満を生む
社会主義は「計画経済」を採用しています。つまり、国民が必要としている「もの」を必要なだけ生産します。
しかし、様々な好みがある国民を、1つの生産計画によって賄うことなどできるのでしょうか? いくら才能のあるひとが計画を入念に練ったからといって「この商品をこんな大量にいらない!」や「この商品もう少し作ってよ!」ということが起こります。
徐々に国民の不満は、計画経済の「計画者」たる政府に向けられることとなります。
計画経済の行き詰まりは独裁者を生む
計画経済によって、多くの国民が不満を持った結果、社会を維持することが難しくなります。
そこで、政府が取る行動は「独裁」です。不満を持っている国民を監視し、圧力を与えるようになります。
「隷属への道」は、タイトルにある通り、貧困からの自由と標榜しながら、結局のところ社会主義は「隷属化」へと向かっていきます。
大切なポイントは、この本が出版された当時は、ヒトラーやスターリンなどの独裁的ファシズムが生まれていなかったという点です。まさにハイエクは、これらを予想していたわけです。
社会主義の計画経済は選択の自由を奪う
計画経済の問題点は、選択の自由がない点だと述べています。計画経済の多くは、通貨ではなく物資によって食料などの必需品が配給されます。
通貨であれば、人々の求めるもの(ニーズ)に合わせて好きなものを買うことができる自由がありましたが、物資で支給されては、それらの欲求を満たせません。
バナナが好きな人もいれば、りんごが好きな人もいる、それなのにバナナが支給されるのでは、不満が出るのは当たり前です。
「通貨」という役割自体が自由を保障するツールなわけです。物資による配給は国民の不満を募らせ、結果的に独裁者による圧政が生まれるわけです。
本来の自由主義の定義は、圧政からの自由でした。社会主義では全く真逆のことが起こってしまうとハイエクは否定したわけです。
まとめ
ハイエクの「隷属への道」は、社会主義的考えが蔓延する中で発表された書籍でした。今でこそ、珍しい考え方ではないですが、当時としてはかなり珍しく支持を集めることができませんでした。
しかしながら、ヒトラーやスターリンなど彼が予言していたかのような独裁者が奇しくも生まれたことで、かなり時間が経ってから評価されるに至りました。
最終的には、ノーベル経済学賞を受賞し、アメリカの政治や経済に多くの影響を与えました。いまだに彼の書籍は、多くの経済学者から引用されています。
弟子であるフリードマンも、ノーベル経済学賞を受賞し、新自由主義という新たな考えを生み出しました。
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社会主義に対する一連の批判を「隷属への道」では行ったわけですが、社会主義的考えとしてマルクスが有名です。
10分でわかるマルクスの「資本論」入門。初心者にも分かりやすく要約・解説します。
注意しなくてはいけないのは、マルクスは、政治的な社会主義体制を肯定しているわけではありません。どちらかというと資本主義、自由主義の限界を説いた人物です。
誰が正しいというわけではなく、マルクスの考え方や、ハイエクの考え方など様々な考え方がある中で、経済をどうするべきなのか、考える必要があるのではないかと思います。