10分でわかるホッブスの「リヴァイアサン」 – 思想をわかりやすく解説

トマス・ホッブスは、ジョン・ロックやルソーに並ぶ、有名な政治哲学者です。

彼の思想は、世界各国で起こる市民革命へとつながり大きなムーブメントを引き起こしました。民主主義の原点とも呼ばれています。

この記事では彼の有名な著書「リヴァイアサン」について具体的にわかりやすく解説します。複雑に思えますが実にシンプルな思想です。

トマス・ホッブスとは?

トマス・ホッブスは、17世紀に活躍したイングランの哲学者です。

「哲学者は何を研究しているの?」と思われる方もいますが、哲学者は「ものの考え方の根本」を考える人たちです。

例えば、私たちは「人を差別してはいけないよ」「人を傷つけてはいけないよ」「そんなことしたらバチが当たるよ」と当たり前のように認識していますが、それらは全て後天的なものです。

原始的な人間であれば、差別もするし、人も殺すかもしれません。しかし、そうならないのは、何らかの「ものの考え方の根本」が無意識のうちに存在しているわけです。

哲学とは、例えば「人を殺してはいけないのはなぜだろうか?」と根本から考えて、それを体系化していく学問です。

ホッブスは、とくに政治哲学において多くの功績を残しました。ホッブスは「政治はどのような形が理想系なのか?」「なぜ今、政治はこの形なのか?」を徹底的に考えて体系化しました。

リヴァイアサンとは?

リヴァイアサン(Leviathan)とは、ホッブスが著した政治哲学書です。1651年に発行されました。題名は旧約聖書に登場する海の怪物から取られました。上の画像にある海の怪物がリヴァイアサンです。

正式な題名は"Leviathan or the matter, forme and power of a common-wealth ecclesiasticall and civil"(リヴァイアサン、つまり、教会や市民による国家の素材、形体、及び権力)です。

つまり、教会や市民による国家(=リヴァイアサン)は、何で形作られているのか?ということです。これを理論立てて考えることで、国家の理想的なあり方を考えようとしました。

人間本性 まずは人間について考える

ホッブスは国家のあり方を考える前に、まず「人間本性」について考えました。

ここで「人間本性」という言葉が出てきましたが、我々が日常使う本性の意味とは全く異なるので、この記事ではきちんと解説しておきます。

まず、哲学は「キリスト教」と密接に結びついています。これが、日本人が哲学を難しい学問だと考えている理由です。詳しくは下記の「反哲学入門」という本に書かれています。この本を読むと、政治学や経済学に至るまで、すべての理論をすっきり理解できるようになります。哲学はすべての学問のベースとなっているからです。

話を戻しますが、キリスト教の世界では、生まれ落ちた人間は、「不完全である」と考えます。人も殺すし、裏切るし、未熟な状態を想定します。

逆に、神であるキリストは「完全である」と考えます。完全であるからこそ、人を殺さないし、人に優しくできる(愛がある)と考えます。これを「理性」と呼んでいます。日本語で理性と書くと、我々も理性くらいあるよね?と考え方ですが、キリスト教の世界では意味が全く異なります。理性は神であるキリストのみ備える「完璧で理想的な心」だと考えてください。

ホッブスは「人間の本性」は当然ながら「不完全である」と考えます。人間は良い人もいるよね?とか考えません。キリストでも神でもないあなたは、みんな不完全だと考えます。

不完全とはつまり、理性によって動くのではなく、本能的な意志に従うということです。ホッブスは、まず、「人間の本性は、本能的な意志に従っているんだ」と考えました。

自然状態 人間は本性に従うとどうなるか

ホッブスは、人間は理性的に動くのではなく、意思(本能的な意思)に従っていると考えました。先ほども述べたように、そうじゃない人間もいるとか考えません。

では、人間は本能的な意志に従うとどうなるのかというと、争いが起こるだろうと考えます。自身の財産や食料を守り、生命を維持しようとすると、世の中の資源や資産は有限なので、奪い合いが起こります。

では「本能を抑制すべきでは?」というとそれも異なります。人間は自身の生命を維持するという究極の権利を持っていると考えます。これは「自然権」と呼ばれ、人間は生まれながらに、この権利を持つため、争いを避けることはできないと考えます。

それはそうですよね。人間は本能的に「生きよう」とするようにインプットされています。死は人間にとって圧倒的な恐怖だからです。人間は自然権を持つ=生きようと思うようにできているので、争いは避けられないとホッブスは考えました。

社会契約 契約を結ぶことで国家が生まれる

ホッブスは、人間は「自然権」を持つので争いは避けられないと考えました。みんなが生きようと思うと、万人の万人に対する戦争にまで発展すると説きます。戦争が起こると、自然権を守ろうとするあまり、逆に自然権が侵されるという事態になります。これでは社会が維持できません。

この状態から脱するにはどうすれば良いのでしょうか?ホッブスは「自然権」を譲渡すれば良いと考えました。自然権を誰に譲渡するのか?というと、ホッブスは、それが「国家(=リヴァイアサン)」であると説きます。

表紙の絵はリヴァイアサンを表す
国民一人一人の集合体で神話の巨人が形作られている

一方で、国民の自然権を「国家」にすべて譲渡する代わりに、国家と国民は「社会契約」を結びます。社会契約とはつまり、自然状態で起き得る「争いを抑制」して「自然権を守る」という契約です。

つまり国家の権力は、国民の自然権の集合ということです。国民は自然権を放棄したわけではなく、自然権を譲渡しているにすぎません。譲渡しているだけなのだから、国家権力(=コモンパワー)を行使するものは、国民の代表者、代理人にすべきだというところまで言及しています。

これが、ホッブスが民主主義の父とまで言われている理由です。この考えが、近代民主主義へとつながっています。

民主主義の歴史について詳しくは下記のリンクで解説しています。

10分で分かる民主主義 – わかりやすく歴史や日本でいつから始まったのかを解説

まとめ

ホッブスの著書「リヴァイアサン」は、近代民主主義の発展に大きな功績を残しました。キリスト教的な世界観から生まれた価値観ではありますが、その根本の考えはとても近代的です。

当時のイギリスは、キリスト教が絶大な権力を持っていたため、キリスト教に沿わない思想だと、反逆者として処刑されるという時代背景がありました。ホッブスはうまくキリスト教を融合させながら、思想を昇華させたというところに大きな功績があります。

彼の功績がなかったら、民主主義は生まれていなかったかもしれません。

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