世界の多くの国々が、資本主義経済(capitalism)と呼ばれる経済体系のもとで国家を運営しています。我が国、日本ももちろん「資本主義経済」です。
一方で、社会主義経済は、19世紀の後半にロシアや東ドイツ等で採用された後に崩壊し、現在では採用している国はごくわずかとなっています。
この資本主義と社会主義の2つの体制は、どのような違いがあるのでしょうか? この記事では可能な限り図解しながら分かりやすく解説していきます。
資本主義経済の誕生の歴史
資本主義経済は、18世紀にイギリスで起きた産業革命とともに生まれました。産業革命は、簡単に言うと「工業化」です。
手作業で行なっていたものが「機械」に置き換わり、大量に製品が生産されるようになりました。
多くの作業の「機械化」が進むと、その「機械」や「工場」「土地」を所有する人が現れます。
それらの所有者は「資本家」と呼ばれ、「資本家」は「労働者」を雇い、「労働者」に「賃金」を払うことで、商品を生産をする方式が一般化しました。そして、このような生産方式を採用する経済を資本主義経済と呼ぶようになりました。生産方式の変化によって資本主義は始まったと言えます。
資本主義経済とは?
先ほど説明したように、資本主義経済の基本は生産方式です。
資本主義経済のより詳細な定義は下記の4つの要素で要約できます。
- 資本蓄積
- 生産手段の私的所有
- 賃金労働
- 自由競争による価格の決定メカニズム
❶. 資本蓄積
商品を販売することで得た「利益」が資本家に溜まっていくこと。
例えば、車を生産して10万円で販売し、原価は9万円とした場合、1万円の利益を得ます。その利益は、資本家によって工場の拡大や設備の購入に充てられます。つまり資本がどんどん資本家にたまっていくわけです。これを資本蓄積と呼びます。
資本蓄積については、マルクスが詳細に分析しています。
資本蓄積をわかりやすく解説!マルクスの資本論を読み解く❷. 生産手段の私的所有
生産手段を私的に所有すること。
例えば土地や工場など、それらを資本家が「所有」することができます。
❸. 賃金労働
労働することと引き換えに「賃金」を得ること。
生産手段を持たない人は、労働者として「賃金」を得ることで生活します。
❹. 自由競争による価格の決定メカニズム
政府が価格を決めるのではなく、市場の需給のバランスによって価格が決定するということ。
アダム・スミスの国富論の「見えざる手」の考えをベースにした考え方です。
5分でわかるアダム・スミスの国富論(諸国民の富)- わかりやすく要約資本主義経済のメリット
資本主義経済のメリットは、人によって別れる部分ではありますが、大きく3つのメリットがあると考えます。
- 自由競争による商品の品質向上と多様性の向上
- 市場の価格の自動調整機能
- 資本所有への欲望のモチベート
❶. 自由競争による商品の品質向上と多様性の向上
まず、資本主義経済は、自由競争による競争原理が働きます。
「他の会社の製品よりも、より良い製品を作ろう」「まだ誰も作ってない商品を作ろう」と思うことで商品の品質や多様性を高めます。それによって多くの人々の欲求を満たすことができる社会を実現します。
❷. 市場の価格の自動調整機能
稀少性が高く多くの人が欲しい商品は、値段が高くあるべきですし、その逆であれば安くあるべきです。
最適な価格は、市場の需要と供給のバランスによって決定します。ゴールドやシルバーが高く、逆に鉄が安い理由も、需要と供給が価格を決めているからです。
下記で詳しく解説していますが、ミクロ経済学の主要な研究対象が、この需要と供給が決める価格についてです。
誰かとても偉い人が「これは高価なものだ!」と言わなくても、マーケットが勝手に決めてくれるわけです。
❸. 資本所有への欲望のモチベート
資本主義経済は、階級を作り出します。
資本家という、いわゆるお金持ちと、そうでない労働者がいるわけです。多くの労働者は、いつかは資本家やお金持ちになりたいと思うわけです。そのような、上に行きたいと思える階層を作り出すことが、資本主義の大きな利点です。
資本主義経済で生まれた問題、デメリット
資本主義は、上記のようなメリットがある中で、産業革命と適合して「ある程度は」成功を収めていました。
しかし、19世紀の後半になると、イギリスや資本主義を採用する他の国でも大きな問題が起きました。それが、「失業」と「貧富の差の拡大」です。貧富の差は、もちろん「資本家」と「労働者」の間で起こりました。当時は餓死者が多く出るほどの危機的状況でした。考えてもみてください。友人や家族が職を失い餓死していく状況です。
この状況下で、このままの資本主義では「世の中うまくいかないのではないか?」「何か他に良い方法はないのか?」と考えるのは、多くの人にとって普通のことでした。
そこで登場したのが「カール・マルクス」です。彼は「資本論」という著書の中で、資本主義の問題点を痛烈に批判し、「社会主義経済」を提唱し、多くの人から支持を集めました。
10分でわかるマルクスの「資本論」入門。初心者にも分かりやすく要約・解説します。希望の光だったマルクスの社会主義経済
餓死者が出るほどの不況で、マルクスの社会主義は多くの人にとって希望の光でした。
社会主義とは、資本家が所有している「生産手段(資本)」を公有化して、必要な商品を計画的に作る「計画経済」を基本とする体制です。
より詳しく社会主義について知りたい方は下記のリンクで解説しています。「社会主義」「共産主義」について理解することができます。
10分でわかる社会主義と共産主義の違い – わかりやすく解説資本家が、大きな工場や機械を所有して、彼らばかりがお金持ちになり、労働者は低賃金で働かされている状況を、打開するために、資本は全て国が保有して、そこで得られた作物も国が管理し、平等に国民に配給すれば良いと考えました。
よく社会主義は失敗だったとばかり思われていますが、社会主義を採用した国々は、長くは続かなかったことは事実ですが、資本主義の国よりも、平等で豊かな社会を実現していました。
マルクス主義についてより詳しく知りたい方は下記のリンクで詳しく解説しています。マルクスの根本的な思想が一体何なのか理解することができます。
マルクス主義をわかりやすく解説 – 思想や問題点を10分で簡単に説明 –社会主義経済のメリット、利点
社会主義経済のメリットは大きく3つあります。
- 人々の格差がなく、金銭的には平等である
- 国民に平等に配給があるので、最低限の生活が保障される
- 計画的に生産をするので無駄がない
一つずつ順番に解説していきます。
❶. 人々の格差がなく、金銭的には平等である
社会主義経済の大きなメリットは格差がないということです。誰もが平等にある程度の衣食住に関わるものは配給されます。
資本主義では、貧富の差が大きく、食べるものすら困る日々を送っていた労働者にとっては希望の光でした。
❷. 国民に平等に配給があるので、最低限の生活が保障される
もう1つの大きなメリットは、最低限の生活が保障されるという点です。社会主義では、住居から衣服、食料まで配給されるので、生きていくには問題ありません。
❸. 計画的に生産をするので無駄がない
計画的な生産を、国単位で行えるので、例えば食べ物が足りなければ、たくさん食べ物を作ろう!と生産の舵を切りやすいです。資本主義では、儲からなければ生産がストップしますが、社会主義ではそうはなりません。
しかし徐々にそのメリットを享受していた国も次第に国家運営が行き詰まることとなります。
社会主義経済の問題、デメリット
うまくいったかに見えた社会主義ですが、大きな問題が起きました。それは、生産量が著しく減少したことでした。
いくら働いても、働かなくても、配給は平等で同じなのが社会主義です。多くの人は、それならば働かなくていいやと、だらだらと働きました。社会主義が始まった時は、理想の社会を実現するんだと意気込んでいた国民も、次第に働かなくなりました。
もう1つの問題は、国民の多様なニーズを、計画経済では、1つの計画で満たさなければいけないため、多くの人は国に不満を持ちました。
例えば、「俺はもっとジャガイモが欲しいのに、今年はあまり作ってない!」「肉が食べたいのに、野菜ばかり!」など多くの不満が出ることは想像できるでしょう。様々な国民の欲求を、1つの計画で満たそうなど、そもそも無理があったのです。
ハイエクは「隷属への道」のなかで、上記のように社会主義の限界について痛烈に批判しています。
5分でわかるハイエクの「隷属への道」要約。ケインズ思想との違い- 働いても、働かなくても配給が同じなので、真面目に働かない。
- 国民の多様なニーズを国の1つの生産計画では満たせない。
上記問題がある中で、社会を維持することは困難です。そこで多くの社会主義国は、強制的、高圧的な、圧政がはびこることになります。社会主義国の多くはファシズムに傾き、国民を弾圧することになります。つまり政府は、国民を強制的に働かせ、不満を言う国民を弾圧しました。
ファシズムについて詳しくは下記のリンクで解説しています。
10分でわかるファシズム ーなぜ誕生したのか?わかりやすく解説我々が間違えてはいけないことは、マルクスは決して国民を弾圧するような社会を望んでいなかったということです。社会主義経済は、国民はもっと理性的だという性善説に基づいていたのかもしれません。
修正資本主義: 問題を乗り越えた資本主義
資本主義経済も、社会主義経済もメリットとデメリットがある中で、なぜ資本主義経済は今もなお多くの国で採用され、うまく働いているのでしょうか?
それは18世紀に誕生した資本主義を、修正してきたからだと言えます。資本主義は、やりようによっては存続可能だと唱えた代表的な人物は「ケインズ」でした。
ケインズは、資本主義経済では、自由競争で市場に任せておくと、必ず失業者が生まれて不況になるのは避けられないと説きました。しかし、不況になった際には、積極的に政府が介入して公共事業を行い、雇用を生み出せば、立て直すことができると説きました。
5分でわかるケインズの雇用・利子および貨幣の一般理論 | ケインズ経済学の基礎ケインズ以前の経済は均衡財政
ケインズ以前の、一般的な財政政策は「均衡財政」でした。
均衡財政とは、「経常支出総額が経常収入総額に等しい財政状態」のことを言います。つまり「税金で得られる収入の分のみ、政府は支出しましょう」という考え方です。個人に置き換えると、給与所得の分だけ、支出は抑えましょうという考え方です。
しかし「均衡財政」には問題点があります。一度不景気に陥るとそのスパイラルから抜け出せなくなる点です。企業の売り上げが下がれば、従業員の給与が減ります。従業員の給与が減れば、税収入が減ります。税収入が減れば政府の支出が減ります。政府の支出が減れば、雇用が減少します。つまり均衡財政を行い続ける限りは、不景気から抜け出せないとケインズは説きました。
景気はコントロールできる
ケインズは、政府が積極的に介入することで景気はコントロール可能だと提唱しました。つまり国は、不景気の時は積極的に借金をして、公共事業に支出し、雇用を生み出します。雇用が生まれれば、国民の給与が上がりますから、税収入が増えます。その増えた税収入で借金を返せばいいと考えました。
エジプトのピラミッドは、国王の墓ではなく景気対策だったとの説が近年有力になってきました。ピラミットを公共事業として行うことで国民の仕事が増え、消費が促され、税収入を増やす。ケインズは、ピラミッドと同じように、不景気の時は、国が借金をしてでも公共事業を増やして、国民の所得を増やすべきだと考えた革命的な人物でした。
資本主義経済と社会主義経済どっちがいい?
資本主義経済と社会的経済のどちらが良いのかと言えば、間違いなく「資本主義経済」であることは間違いありません。その理由は、人間の持つ欲望にうまく合致したシステムだからです。
社会主義では、どうしても、様々な人の欲望を満たすことができません。均一に作られた製品と、平等に配られる配給では、多くの人を満足させることができないのです。一方で、資本主義経済は、自由競争によって多様で、高品質な製品を生み出し、人々の欲求を満たすことができます。それこそが強力なエネルギーとなり、人々を引きつけてきました。
しかし、資本主義経済は、マルクスが批判したように多くの問題をはらんでいます。これから我々は、ケインズの思想でアメリカの大恐慌を乗り越えたように、資本主義を修正していく必要があると考えます。
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