ケネーはフランスの経済思想「重農主義」の創始者として知られています。
重農主義とは、経済において農業を重視する考え方ですが、ケネーの著書「経済表」を読むとその考えに至る根拠を理解することができます。
この記事では、原本では非常にわかりにくい経済表を可能な限りわかりやすく解説します。なお経済の前提知識は必要ありません。
フランソワ・ケネーは名医だった
フランソワ・ケネーは、異色の経歴の持ち主で、経済学者ではなく医師でした。しかも、相当な名医だったらしく、パリ大学医学部を卒業した後に多数の論文を残し、特に外科の領域で多大な功績を残しました。
そんなケネーが経済学に興味を持ったきっかけが、当時活躍したイングランドの名医ハーヴェイ医師の「血液循環説」から経済循環の着想を得たのではないかといわれています。
当時主流の考え方は、血液は「一方通行」にしか流れないというものでした。しかし、ハーヴェイ医師は、血液は循環するものだという主張をし、見事その事実を認められました。
その考え方をもとに、ケネーは経済も血液循環になぞらえて、循環するのではないか?と考えました。血液のように経済も循環するのであれば、血液を送り出す心臓のようなものがあるはずだと考えました。
その心臓のポンプの役割は「農業」なのではないか?とケネーは考えたわけです。そこから、経済のポンプたる「農業」を重視しようという「重商主義」へと繋がってくるわけです。
農業こそが富を生み出す唯一の源泉
ケネーの経済表での主張はとってもシンプルです。
「富を純粋に増加させるのは農業のみ」という主張です。
例えば、一粒の小麦の種から、たくさんの種が生まれますよね。この増加分をケネーは「純生産物」と呼んでいます。つまり、成果:100粒の種 ー コスト:一粒の種 = 純生産物::99粒の種となります。
いやいや、工業や商業だって、富を増大させているじゃないか?と思うかもしれませんが、ケネーは次のように考えます。
- 工業は、既にある生産物を加工して、異なるものに作り替えているだけなので、富が純粋に増えているわけではない
- 商業は、既にある商品と商品を交換しているだけなので、富は増えていない
つまり、社会の富を増大させる「純生産物」を作れるのは農業だけであると考えます。
なので、政府は工業や商業を奨励するのではなく、農業こそ大事にすべきだと考えました。血液循環の心臓たる「農業」さえしっかりしていれば、自ずと富は循環して、健康になるはずだとかんがえました。
ケネーは政治のあり方をも進言
ケネーは、国王はどのように国民を統制したら良いのかまで進言しています。先ほど説明した、重農主義の考え方をベースにどのように国民を動かせば、国全体が豊かになるのか説明しました。
まず、ケネーは国民を3つの階級に分けることを主張します。生産階級、地主階級、不生産階級の3つです。
- 生産階級
農民のこと。国の経済の心臓で、唯一富を増大させることができる階級。ケネーは彼らを優遇すべきとした。 - 地主階級
農民から「地代」を吸収して生活を営む階級 - 不生産階級
農業以外に従事する市民。つまり商工業者のこと
そして国王に下記の内容を進言しています。
- 大事なことは、「農業」によって富を増やし「流通→配分→再生産」と循環させること
- 循環させなければ意味がないので、「税を取りすぎたり貯蓄をする」のは悪である
税を取ったり、貯蓄をすることは再生産の妨げになり、富の増大を阻害する - 家畜を増やす
家畜を増やせば、農業生産のための肥料となる。 - 農家を定住させて、国外流出は避ける
- 農民の娯楽を減らさない農民の楽しみがなければ、労働意欲が下がるため、富は循環せずに国は貧しくなる。つまり農民が貧しければ、国王も貧しくなる。
- 国王が保護すべきは農業で、その他は自由放任にする
農業は純生産物を作り出し、富が純増するので、国を挙げて推奨するべき。逆に商工業は、市場に任せて自由に競争させれば良い。 - 政府は節約せずに農地に投資すべき
- 農産物の販路拡大のために公共事業をする
- 小さな農地は統合して、どんどん大きくすべき
農業においても「規模の経済」が働き、規模が大きい方が効率的に生産できるため
※規模の経済とは、大規模に生産すればするほど、一単位当たりの生産コストが下がること - 政府は借入金を避けること
貸し付け業者に、国にお金を貸すビジネスがおいしいと思われてはいけない
農業に使うお金がなくなるため - 農産物の国外貿易は推奨する
どんどん外国に売って稼げれば、さらに再生産ができるようになり富が増大する
「政府は借入金を避けるべき」という進言には、現代の感覚だと違和感を覚える人も多いのではないでしょうか?世界の政府は現在では、借金を大量に抱えて、政府の支出を増やしています。
しかし、この頃の国は、現代とは異なり「金本位制」なので、国家が簡単に借金して支出を増やすのは困難だったという背景があります。金本位制について詳しくは、下記のリンクで解説しています。
10分でわかる金本位制 – わかりやすく誕生や崩壊の歴史を解説 –コラム ケネーはアダムスミスよりも先に重商主義を否定した?!
ケネーは、経済学の父である「アダムスミス」以前に、重商主義を否定しています。
アダムスミスは、下記リンクで詳しく解説していますが、輸出ばかりして金銀をため込むことで国民が豊かになる訳ではなく、自由に貿易して商品が行き渡ることが豊かさにつながると説きました。
5分でわかるアダム・スミスの国富論(諸国民の富)- わかりやすく要約ケネーとアプローチは異なりますが、経済を血液のように循環させることを重要視した点は同様です。ケネーはアダムスミスの自由貿易のコンセプトを、ひと足先に打ち立てたとも言えます。
まとめ
ケネーは一貫して農業を優遇する立場を取りました。
この考え方は当時としてはとても珍しい考え方でした。イギリスでは産業革命が始まり、重商主義の考え方が主流になりつつある中で、彼は農業を推奨したからです。
彼がその考え方に至った理由は、当時のフランスは農業国だったため、イギリスに負けじと対抗するよりも、自分たちのやり方で豊かになろうという思いがあったからかもしれません。