国家運営や財政政策に大きな影響を与えたケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』について、5分でわかりやすく解説します。
ケインズは、マクロ経済学の基礎を築いた経済学者の一人として知られており、現代の経済政策にも強い影響を与えています。
この記事を読めば、ケインズ理論の重要なエッセンスをつかめるはずです。
ケインズとは?

ジョン・メイナード・ケインズは、イギリスの経済学者です。
彼が発表した『雇用・利子および貨幣の一般理論』は、世界中の経済政策に大きな影響を与えました。
ケインズがこの理論を発表した当時、主流だったのはアダム・スミス以来の古典派経済学、つまり「政府はなるべく介入せず、市場に任せるべきだ」という考え方でした。
一方で、そのような資本主義に対する鋭い批判として、マルクスの『資本論』がありました。マルクスは、資本主義社会では資本家と労働者の格差が広がり続けると指摘しました。
マルクスの『資本論』については、下記で解説しています。
しかし、ケインズは「政府が適切に市場へ介入すれば、資本主義は持続可能だ」と考えました。

ちなみにケインズは、近代経済学の基礎を整えたアルフレッド・マーシャルの弟子でもあります。マーシャルは、需要曲線と供給曲線が交わる点で価格が決まるという理論を体系化した人物です。詳しくは下記で解説しています。
ケインズ以前は均衡財政
ケインズ以前、一般的な財政の考え方は「均衡財政」でした。
たとえば、公園や道路などの公共施設を作ったり、補助金を出したりすることです。公共事業を増やせば、その分だけ雇用や所得が生まれます。なお、「金融政策」は中央銀行が金利を調整して景気に働きかける政策です。
均衡財政とは、政府の支出を税収の範囲内に収めるという考え方です。つまり、「税金で得られる収入の範囲でのみ支出しましょう」ということです。
個人に置き換えると、「給料の範囲内だけで生活費を使いましょう」という発想に近いです。
しかし、ケインズはこの均衡財政には大きな問題があると考えました。いったん不景気になると、その悪循環から抜け出せなくなるからです。
企業の売上が下がると、従業員の給料が減ります。給料が減ると税収も減ります。税収が減ると、政府も支出を減らします。すると、さらに雇用が減り、景気が悪化します。
つまり、均衡財政を守り続ける限り、不況のスパイラルを断ち切れないとケインズは主張しました。

財政政策で景気はコントロールできる
ケインズは、政府が積極的に介入することで景気はコントロールできると提唱しました。
つまり、不景気のときには政府が借金をしてでも公共事業を増やし、雇用を生み出すべきだと考えたのです。
雇用が生まれれば、国民の所得が増えます。所得が増えれば消費も増え、税収も回復します。そうして景気が立ち直れば、増えた税収で借金を返していけばよい、という考え方です。

ケインズは、不景気のときに政府が積極的に支出することを正当化した点で、非常に革新的でした。
エジプトのピラミッドは、王の墓ではなく景気対策だったという説が語られることがありますが、ケインズの発想もこれに近いものです。不景気のときは、たとえ借金をしてでも公共事業を行い、人々の仕事と所得を増やすべきだと考えました。
資本主義の問題点
ケインズは、資本主義には構造的な問題があると考えていました。
ケインズ
つまりケインズは、資本主義経済は放っておくと失業を生み、完全雇用を実現できないと考えていました。
だからこそ、政府が積極的に介入して景気を安定させる必要があると主張したのです。
今では比較的当たり前に聞こえるかもしれませんが、当時としてはかなり画期的な発想でした。
利子率と利潤率
ただし、政府が公共投資を増やして所得を増やしても、人々がそのお金をすべて貯蓄してしまえば、消費や投資は十分に増えません。
ケインズ理論では、利子率を下げ、利潤率を相対的に高めることが重要になります。
- 利子率
銀行にお金を預けたり、貸し出したりしたときに得られる利回りです。たとえば年利5%なら、100万円を預けると1年後に5万円増えます。 - 利潤率
事業や投資にお金を回したときに得られる収益率です。たとえば年10%なら、100万円の投資で10万円の利益が期待できます。
もし利子率が高く、利潤率が低ければ、人々は事業や投資にお金を回さず、銀行に預けることを選びます。
逆に、利潤率のほうが高ければ、企業活動や投資が活発になり、景気は上向きやすくなります。
つまりケインズ理論では、ただ政府が支出するだけでなく、お金が消費や投資に向かいやすい環境を整えることも重要なのです。
ケインズ理論の欠点:ハーヴェイロードの前提が崩れた
ケインズ理論には限界も指摘されています。その代表例が「ハーヴェイロードの前提が崩れた」という批判です。
ハーヴェイロードとは、ケインズが育った場所に由来する表現です。
ケインズ理論は、次のような前提に立っていました。
・国が借金をして公共投資を行う
・雇用と所得が増える
・税収が増えたら借金を返す
しかし現実には、景気が回復しても政府は簡単には借金を返しませんでした。
なぜなら、公共投資を急にやめれば国民や有権者の反発を招きますし、景気回復後に増税して借金を返そうとしても、それもまた強い反発を受けるからです。
つまりケインズは、国家は合理的に意思決定し、必要なときだけ借金し、回復したら返済するだろうと考えていましたが、現実の政治はそう単純には動かなかったのです。
この点を皮肉って、「ハーヴェイロードの前提が崩れた」と言われるようになりました。

こうしたケインズ理論の限界を補うように、その後アメリカでは「新自由主義」と呼ばれる考え方が広がっていきました。
新自由主義については、下記で解説しています。
まとめ
ケインズが唱えた「政府の積極的な介入による景気のコントロール」は、現代の財政政策にも大きな影響を与えています。
日本でも、金融緩和や公共投資が行われるたびに、ケインズ的な考え方が意識されています。アベノミクスも、その影響を受けた政策の一つといえるでしょう。
一方で、アメリカなどでは新自由主義の考え方も強くなり、政府の介入を抑える方向へ進んだ時期もありました。しかしその結果、格差拡大など新たな問題も目立つようになりました。
つまり、ケインズ理論は万能ではないものの、資本主義をどう安定させるかを考えるうえで、今でも欠かせない視点を与えてくれています。
新自由主義については下記で解説しています。


