ヘーゲルは、カント哲学を継承しながら、それをさらに展開したドイツ観念論の代表的哲学者です。
ドイツ観念論は約50年にわたって展開された哲学運動ですが、その中心課題は、カントが残した二元論を乗り越えることにありました。
この記事では、ヘーゲルがどのようにカント哲学の問題点を引き受け、それを克服しようとしたのかを、できるだけわかりやすく解説します。
なお、ヘーゲルを理解するには、少なくともカントの思想を押さえておく必要があります。下記の記事で詳しく解説しています。
カントからヘーゲルへ
カント哲学を継承・展開したフィヒテ、シェリング、ヘーゲルらの哲学は、ドイツ観念論と呼ばれています。
この時代は、ソクラテス、プラトン、アリストテレスによって展開されたギリシア古典哲学に匹敵する黄金時代だと評価されることもあります。ギリシア古典哲学については、下記の記事で解説しています。
カントの『純粋理性批判』が刊行されたのは1781年、ヘーゲルの没年は1831年です。ちょうど半世紀にわたってドイツ観念論は展開されました。

この哲学が目指したのは、カントが限定的に認めた人間理性の力を、さらに押し広げることでした。
カントは「現象界」と「物自体界」を区別し、人間理性が正しく理解できるのは「現象界」に限られると考えました。

しかし、この「現象界」と「物自体界」という二元論は、どこか落ち着きが悪く見えます。ヘーゲルは、この分裂を乗り越え、世界をより統一的に理解しようとしました。
ヘーゲルとは?

ヘーゲルは1770年、南ドイツのシュトゥットガルトに生まれました。1788年にテュービンゲン大学へ進学し、哲学と神学を学びます。
その翌年の1789年にはフランス革命が起こり、ヨーロッパ全体が大きく動き始めます。ヘーゲルの人生と思想は、こうした社会の大変動と切り離して考えることができません。
大学卒業後は、当時の慣習に従って貴族や実業家の家庭教師をしながら研究を続けました。
1801年には、シェリングの推薦でイェナ大学の私講師となります。その後、シェリングとともに哲学雑誌を発行するなど活動を広げていきました。
そして1807年、主著『精神現象学』を刊行します。この著作によって、ヘーゲル哲学は本格的に形を取り始めました。
その後は各地の大学で教え、多くの弟子を育てながら、ドイツ哲学界の中心人物となります。1830年にはベルリン大学総長に就任しますが、1831年にコレラで亡くなりました。
ヘーゲルの思想 - 『精神現象学』とは?
では、ヘーゲルはカントの思想をどのように展開していったのでしょうか。
カントは、人間理性の有限性を強く主張しました。つまり、人間理性が確実に及ぶのは「現象界」のみであり、「物自体」は理性によって完全には把握できないとしたのです。
カントはこの現象界を、「悟性の枠組み(カテゴリー)」によって整理されるものと考えました。
しかしヘーゲルは、その「カテゴリー」がもっと増え、もっと展開していくなら、人間理性が理解できる範囲も広がっていくのではないかと考えました。
もしカテゴリーが無限に発展するなら、物自体の世界は限りなく小さくなり、最終的には独立したものとして認める必要すらなくなるかもしれません。

| 直感の形式 | 思考の枠組み | ||
|---|---|---|---|
| 量 | 単一性 | 数多性 | 全体性 |
| 質 | 事象内容性 | 否定性 | 制限性 |
| 関係 | 実体と属性 | 原因と結果 | 相互作用 |
| 様相 | 可能性 | 現実性 | 必然性 |
そもそもカントが12個の固定的なカテゴリーを立てたこと自体、後の哲学者たちには不満がありました。人間精神の働きはもっと生き生きとしていて、歴史の中で発展していくはずだと考えられたのです。
そこでヘーゲルは、当初は異質に見えるものも、精神が自らの枠組みを広げることで取り込み、より大きな理解へ進んでいくと考えました。
無時間的世界から歴史的世界へ
ヘーゲルは、カントの現象界と物自体界という二元論を克服しようとする中で、人間精神そのものを動的なものとして捉えます。
つまり、人間精神は固定された静的なものではなく、拡張し、変化し、発展していくものだと考えたのです。いわば、点としての理性から、歴史の中で展開する線としての精神へと発想を転換したわけです。

この転換と並行して、人々の世界観も変化していきました。世界は、神があらかじめ作った固定的なものではなく、人間が自ら作り変え、歴史を通じて形成していくものだと捉えられるようになっていきます。
また、歴史を作る主体として民族や国家が意識されるようになり、民族精神という考え方も強まっていきました。その意味で、ヘーゲル哲学は近代的な歴史意識や民族意識とも深く結びついています。
弁証法とは何か
ただしヘーゲルは、人間精神が一方的に世界へ自分の枠組みを押しつけるとは考えませんでした。
むしろ精神は、世界とぶつかり、影響を受け、修正されながら成長していくと考えました。つまり、精神と世界は相互作用するものだと捉えたのです。
この考え方を理解するうえで重要なのが「労働」という観点です。ヘーゲルは家庭教師時代にイギリスの古典経済学、特にアダム・スミスの影響も受けていました。
アダム・スミスについては下記の記事で解説しています。
労働とは、主体が一方的に対象へ働きかけることではありません。対象に働きかけることで、逆に主体も訓練され、変化し、スキルを獲得していきます。つまり、主体と対象は互いに作用し合っているのです。
ヘーゲルは、このような相互作用の構造を哲学的に捉え、それを弁証法として展開しました。
絶対精神を獲得する
ヘーゲルは、人間精神は労働や歴史的経験を通じて、弁証法的に成長していくと考えました。
そして、精神が成長し続けた結果、もはや自分にとって異質なものが何も残らなくなったとき、絶対精神に至ると考えたのです。
ヘーゲルは、フランス革命の歴史的経験にもこの思想を重ね合わせ、人間は長い圧政から解放され、自由を意識的に実現する最終段階へ向かっていると考えました。
超自然的思考様式の完成
こうして、カントによって自然界の認識が人間理性に属するものとされ、さらにヘーゲルによって、その支配と理解の範囲を拡大していくのが人間精神だと考えられるようになりました。最終的には人間精神が「絶対精神」にまで至るという壮大な構想です。
この意味で、人間はもはや自然に従うだけの存在ではなく、自然を理解し、取り込み、支配しうる立場へと押し上げられたことになります。
プラトンが「イデア」のような超自然的原理を立てたのに対し、ヘーゲルはそれを近代的な形で人間精神の側へ取り戻したとも言えます。
プラトンについては下記の記事で詳しく解説しています。
ヘーゲルによって、人間が自然を理解し、操作し、技術として取り込むことの哲学的根拠が強く打ち出されました。その後の近代化や機械化を支える思想的背景の一つとして、ヘーゲル哲学を位置づけることもできます。
哲学を知るのにおすすめの本
私が哲学を学ぶ上でおすすめしたい本は『反哲学入門』です。
哲学史をここまで体系的に整理している入門書は多くありません。この一冊を読んでおくと、専門的な哲学書に進んだときでも理解しやすくなります。哲学とは何かという問いを軸に、さまざまな哲学者を整理しており、基礎固めに向いています。
まとめ
ヘーゲルは、カントが残した二元論を克服し、人間精神をより動的で歴史的なものとして捉え直した哲学者です。
- カントは現象界と物自体界を区別し、人間理性の有効範囲を限定した。
- ヘーゲルは、その二元論を乗り越えようとし、精神は歴史の中で拡張していくと考えた。
- 精神と世界は弁証法的に相互作用しながら、より高い理解へ進んでいく。
- 最終的に精神は絶対精神に至り、世界を統一的に把握する段階へ向かう。
この意味でヘーゲルは、カント以後のドイツ観念論を完成へ導いた哲学者だと言えます。
また、近代における歴史意識、技術、国家、民族精神といったテーマを大きく哲学へ取り込んだ点でも、ヘーゲルの影響は非常に大きいと言えるでしょう。




ということは材料物理数学再武装はアルゴリズム革命の根源を述べたまさに産業革命に匹敵するはなしなのかもしれない。