新自由主義(ネオリベラリズム)とは、政府の介入をできるだけ小さくし、市場原理を重視する経済思想です。
この記事では、新自由主義を10分で理解できるよう、できる限りわかりやすく解説します。また、新自由主義への批判や、格差拡大のメカニズムについても見ていきます。
新自由主義とは?
新自由主義とは、国家による福祉や公共サービスを縮小し、自由競争に委ねることで、経済はより良くなると考える経済思想です。
福祉とは、たとえば国民年金、健康保険、失業保険などのことです。これらは、国民に予期せぬ事態が起きたときに、政府が生活を支える制度です。
福祉が充実していれば、国民は安心して暮らすことができますし、社会秩序の維持にもつながります。たとえば、ある人が失業しても何の保障もなければ、生活が立ち行かなくなり、社会不安や犯罪の増加につながるかもしれません。そうなれば、経済全体にも悪影響が及びます。
公共サービスは、たとえば鉄道やバス、電気や水道など、国民生活に欠かせないサービスのことです。
- 福祉とは?
国民年金、健康保険、失業保険、生活保護など - 公共サービスとは?
電気、水道、電車、バスなど、国民の生活に欠かせないサービス
新自由主義は、これらの福祉や公共サービスを縮小し、できるだけ市場に委ねることを良しとします。たとえば、失業保険や医療保険などの公的保障を縮小し、その代わりに民間の保険会社の商品を利用してもらうようにしたり、電車やバスを民営化して、政府の関与を最小限にしたりする考え方です。
では、なぜそのようにすることで経済がうまくいくと考えられたのでしょうか。
この考え方が生まれた背景を見ると、理解しやすくなります。
ケインズ経済学:新自由主義以前の主流派

新自由主義が台頭する以前、主流だった経済学は「ケインズ経済学」でした。
この経済学は、繰り返される大恐慌を乗り越えるための理論として誕生しました。詳しくは下記のリンクで解説しています。
簡単に言えば、ケインズ経済学は、不況のときには政府が積極的に市場へ介入し、景気を支えるべきだと考える経済学です。
たとえば、不況で失業者が増えている場合には、政府がダムや道路の建設などの公共事業を行います。建設には労働者が必要ですから雇用が生まれます。そして、その労働者がレストランや商店でお金を使えば、経済全体にお金が循環し、景気が回復すると考えました。

しかし、このやり方は1970年代ごろから問題視されるようになります。理由は、政府の赤字が膨らみ続けたからです。
政府は公共事業のために支出を増やしますが、その多くは借金によって賄われます。本来は、景気が回復した後に増えた税収で返済すればよいと考えられていました。ところが、現実にはそう簡単にはいきませんでした。
ダム建設や道路建設をやめれば、そこで働いていた人たちは仕事を失います。そのため政治家たちは、より多くの公共事業を約束することで支持を集めるようになりました。
結果として、大規模な公共工事が常態化し、政府は巨額の財政赤字を抱えることになります。こうして、ケインズ経済学は限界にきているのではないか、と考えられるようになりました。
ハイエク:新自由主義の土台を築いた人物

政府が巨額の赤字を抱える中で、これまでとは異なる発想が注目されるようになります。その中心人物の1人が、フリードリヒ・ハイエクです。
ハイエクは、政府が市場に積極的に介入するやり方を強く批判しました。政府の役割はできるだけ小さくし、自由競争に任せたほうが、経済はうまくいくと考えたのです。
詳しくは、代表的な著書『隷属への道』に書かれています。
また彼は、貨幣の発行さえも国家が独占するのではなく、民間が自由に競争したほうが、より良い通貨だけが生き残ると考えました。
フリードマン:新自由主義を政策として広げた人物

ハイエクの考え方を引き継ぎ、実際の政策に大きな影響を与えたのが「ミルトン・フリードマン」です。
彼が示した、政府が守るべき原則は大きく次の2つです。
- 第1原則:国防
他国から攻撃されたときに、政府は国民を守らなくてはならない。外国からの侵略は国民の自由に対する侵害であり、そこから守るのは政府の重要な役割だと考えました。 - 第2原則:小さな政府
どうしても政府が必要な政策や制度がある場合でも、できるだけ小さな単位で行うべきだという考え方です。国より県、県より市というように、なるべく小さな単位で実施したほうが、人々は嫌なら移動できるため、自由が守られやすいと考えました。
この考え方にはどこか見覚えがあります。そう、アダム・スミスの考え方にかなり近いのです。アダム・スミスは、国の役割は「国防」「司法」「公共施設の整備」程度で十分であり、それ以外は市場に任せれば「見えざる手」によって最適化されると考えました。
フリードマンも、政府は最低限の役割にとどまり、その他は自由競争に委ねるべきだと考えました。
逆にいえば、フリードマンは「政府が行うべきではない」と考えたことも数多く挙げています。これを見ると、彼の自由主義がかなり徹底したものであったことがわかります。
2. 輸入関税または輸出制限
3. 農産物の作付面積制限や原油の生産割当てなどの産出規制
4. 家賃統制
5. 法定最低賃金や価格上限
6. 細部にわたる産業規制
7. 連邦通信委員会によるラジオとテレビの規制
8. 現行の社会保障制度、とくに老齢・退職年金制度
9. 事業・職業免許制度
10. いわゆる公営住宅および住宅建設を奨励するための補助金制度
11. 平時の徴兵制
12. 国立公園
13. 営利目的での郵便事業の法的禁止
14. 公有公営の有料道路
職業免許制度すら廃止すべきだと主張していた点は、かなり極端に感じられるかもしれません。たとえば日本では、医師免許を持つ人しか医療行為ができませんが、フリードマンはそうした制度すら市場に任せればよいと考えました。
つまり、医師免許がなくても、医療行為が下手な人には患者が集まらず、逆に優れた医師には人が集まるのだから、市場競争に委ねればよいという発想です。
この考え方は、アメリカのレーガン政権やイギリスのサッチャー政権で実際の政策として取り入れられました。日本でも中曽根政権や小泉政権で、新自由主義的な政策が進められました。
ちなみに、新自由主義の根本にある思想は「リバタリアニズム」と呼ばれています。これは、政府の介入を極限まで減らすべきだとする政治思想・哲学です。詳しくは下記のリンクで解説しています。
新自由主義で格差が拡大する理由
新自由主義は、「自由」という言葉の響きから、国民主体の望ましい考え方のようにも見えます。しかし実際には、政府の介入を減らし、規制を緩和することで、貧富の差が広がったという批判があります。
日本でも小泉政権期に新自由主義的な路線が取られました。その代表例の1つが、労働市場の規制緩和です。派遣労働の仕組みが広がったことで、不況時には企業が派遣社員を切りやすくなり、結果として「強い企業」と「弱い労働者」という構図を強めることになりました。
アメリカでも、レーガン政権のもとで新自由主義的な政策が進められ、その結果として格差が大きく拡大したといわれています。
自由放任にするということは、単純にいえば弱肉強食を容認することでもあります。それを認めれば、当然ながら多くの敗者が生まれ、格差は拡大しやすくなります。経済の活性化という側面は確かにあったとしても、新自由主義が行き過ぎれば大きな問題を生むことを、歴史から学ばなければなりません。
ちなみに、格差を表す経済指標として「ジニ係数」があります。世界全体で格差が緩やかに拡大していることも確認できます。下記で詳しく解説しています。
まとめ
新自由主義とは何かについてまとめました。
新自由主義は、ケインズ経済学の行き詰まりを打開する新しい考え方として登場し、世界各国で政策に取り入れられました。しかしその一方で、格差が拡大するという副作用も生み出しました。
ただし、すべてが悪いと一概には言えません。実際には、新自由主義によって規制が緩和され、イノベーションが促進された面もあるといわれています。
政府は、自由競争を重視する新自由主義と、不況時には積極的に介入するケインズ経済学とを、状況に応じて使い分ける必要があるのかもしれません。


