ジョン・スチュアート・ミル(J・Sミル)は、1806年〜1873年に活躍したイギリスの哲学者です。
哲学者でありながら、彼の考え方は「政治学」や「経済学」に多大な影響を与えました。中でも彼の記載した「自由論」は、自由主義的な経済観に対して大きな影響を与えました。
この記事では、J・Sミルの「自由論」の重要な要素を5分で理解できるようにまとめます。自由論は膨大な文章量の論文ですが、言いたいことは非常にシンプルです。
ジョン・スチュアート・ミルとは?
J・Sミルは、イギリスのロンドンに生まれました。彼の驚くべきところは、大学はおろか小学校すら通っていないというところです。ただし、厳格な父に育てられ、勉強ばかりしていたそうです。
彼は父親のスパルタ教育によって、哲学や政治学、経済学など様々な書籍を与えられ多くの要素を学び取っています。特に、アダム・スミスやリカードなどの自由主義的な発想から多大な影響を受けています。
アダム・スミスやリカードといえば、古典経済学の祖とされる人物です。自由に市場原理に任せることで、「経済がうまくいく」と考えた代表的な人物です。
5分でわかるアダム・スミスの国富論(諸国民の富)- わかりやすく要約10分で分かるリカードの経済学および課税の原理 | わかりやすく解説ミルの「自由論」とは?
自由論で語られることは、簡単にいうと「自由とは何なのか?」ということです。
なぜ膨大な文章でミルは「自由」を考えようとしたのか?と思う方もいるかと思いますが、「自由」という概念は、非常に曖昧な概念だからです。
例えば、「経済的に自由である」と言った場合は、どのような状況なのでしょうか?人によっても程度は異なるでしょう。また「言論の自由の侵害である」と言っても、その自由とは「どの程度の自由」を保証しているのでしょうか?
「政治」や「経済」をどう動かしていくのかを考える前に、そもそもの人間の「自由」について哲学的な結論を導く必要がありました。今でこそ憲法に「言論の自由」が記載されていますが、「自由」が定義されなければ制度を作ることができません。哲学は様々な領域の基礎的な土台となることが理解できるかと思います。
そのため、この「自由論」は、政治学や経済学などに多大な影響を与えることとなりました。
ミルの「自由」の定義
ミルの「自由」の定義は非常に明快です。彼の自由の定義は下記の通りです。
この考え方の基礎には「功利主義」が背景にあります。功利主義とは、簡単にいうと、「社会全体の利益が高まる限りにおいては、自己の利益を追求して構わない」という考え方です。
ミルの定義する「自由」は、下記の行為が許されないということが理解できるかと思います。
- 強盗によって金銭を盗むこと
- 精神的に圧力をかけることで、言論を統制すること
ミルはさらに、社会にとって重要な二つに自由について、より詳細に述べていきます。
自由論で語られる2つの自由
ミルの「自由論」では、大きく分けて二つの自由について述べられています。1つ目が「言論の自由」について、2つ目が「行為の自由」についてです。
- 言論の自由
- 行為の自由
「言論の自由など当たり前じゃないか」と思われる方もいるかもしれませんが、この本が発行されたのは1800年代です。当時としては、かなり革新的な考え方でした。
1. 言論の自由とは何か?
言論の自由が認められなければいけない理由は、ミルによると3つあると述べられています。
- 抑圧しようとしている意見が、実は正しいかもしれない。
- 一般的な大衆の意見が完全に正しいわけでもないから。それぞれの意見を比較することで、正しい意見をより正しくすることができるから。
- 両方の意見が正しい場合でも、様々な意見を検討してこそ、何が正しいかを自ら判断できるようになるから。
つまり、ミルは多数派の意見によって、少数派の意見を抑圧するようなことは、あってはならないと糾弾します。その理由は、異端とみなされるあまり、意見を少数派が言わなくなると、それ以上思想の進歩がなく社会にとって大きな損失となるからです。
日本では、特に少数派の意見に対して、「異端」として切り捨てる傾向にあります。このような同調圧力が、全てにおいて社会的損失だとミルは考えたわけです。この近代的価値観をイギリスは1800年から会得していたわけです。
2. 行為の自由とは何か?
ミルは「行為の自由」については、「言論の自由」よりもさらに慎重に考えるべきだと述べました。
その理由は、行為の自由は、他者や社会に対して、損害を与える可能性が非常に高いからです。ミルは下記のように述べています。
- 行為の自由は、言論の自由よりも制限されるべきである。
- 多様なライフスタイルが存在することは有益である。
- 他人に損害を与えない限りで私たちひとりひとりが個性を発揮することが望ましい。
つまり、言論だけでなく「行為」についても、他人に危害を与えない限りにおいては、多様なライフスタイルを持っていることが社会にとって重要であると述べています。
様々な行為があることで、どちらの行為が良いのか、より社会は判断できるようになり、進歩していくのだと述べました。とても近代的な考え方ですね。
社会が自由に干渉すべき領域
ミルは、社会が自由に干渉すべき領域については、「犯罪に対して刑罰を与えること」であると述べています。
この考え方も、ミルの功利主義的な考え方が色濃く反映されています。ミルが定義する自由は、「他人に迷惑をかけない限り、利益を追求することができること」でした。
そのため、他人に迷惑をかけるような犯罪行為については、他者の自由を侵害することになるため、社会は刑罰を与えることによって、より良い社会を形成することができると考えました。
まとめ
J・Sミルの「自由論」について、エッセンスのみに絞って解説しました。
1800年代に発行された、この本ですが非常に近代的な価値観が書かれています。当時日本は、江戸時代であり封建制度ですから、ミルのいう自由は日本には存在しなかったと言えそうです。急激に日本は、その後近代化を推し進めて「言論の自由」「行為の自由」などの制度を整えましたが、まだまだ精神的には全体主義がまかり通っているように感じます。
みんなが良いというものが良い、右へならへの発想は、日本の特色として認識されていますが、ミルからすれば、そのような考え方自体が「社会全体としての損失」ということです。より多様なライフスタイルを選択できることが、社会の進歩につながると改めて認識したいところです。
On liberty をオーディオブックで聴き始めてアンチョコを探していたところの出会いです。おかげさまで大変よくわかりました。さらに学ぶ動機付けにもなりました。ありがとうございました。