10分でわかるソクラテスの思想 -弁明・問答法をわかりやすく図解

ソクラテスは古代ギリシャに誕生した最初の「哲学者」です。

彼が登場したことで、それまでの「古代ギリシャ的価値観」に大ナタを振るい、哲学の発展の基礎を作ったと言っても良いでしょう。

この記事では、ソクラテスの思想を説明するだけでなく、そもそも「哲学とは何か」や「なぜソクラテスが哲学を生み出したのか」についても説明していきます。この記事を読めば、ソクラテス以降に数々誕生した「プラトン」や「アリストテレス」などの思想についての理解も深まります。

下記の記事で、哲学史をわかりやすく一気に解説していますので、ざっくり哲学を理解したい方におすすめです。

哲学とは何か? 重要な哲学者の思想を歴史に沿ってわかりやすく解説

哲学とは何か?

ソクラテスが始めた「哲学」という学問は一体何なのでしょうか?

「哲学」という学問に全く触れてない人にとっては、つかみ所のない、曖昧な学問だと思われているかもしれません。しかし、哲学が対象とする領域は非常にはっきりしています。

哲学とは簡単にいうと「存在とは何か?」を問う学問です。

哲学とは「存在」について考える学問

ここで多くの人がややこしいと感じます。特に日本人は「存在」なんて、あるものはあるし、それ以上でも以下でもないのでは?と思ってしまいます。

しかし、ヨーロッパや西洋においては「この存在」について突き詰めて考える、一種の学問的運動がソクラテス以降続いていくことになります。

存在とは何か?

ここでは「存在とは何か?」について突き詰めて考えていきます。

例えば、目の前にあるリンゴが「なぜ存在するのか」について、「古代ギリシャの人々」と「ソクラテス以降の人々」の間で決定的な違いがあると近代哲学者のハイデガーは指摘しています。

古代ギリシャの人々は、この世に存在するありとあらゆるものはなり出でてあると思っていました。

この世の万物は、生き生きとした生命の運動によって生み出されているという価値観です。日本人の八百万の神を信仰するのにかなり近い価値観を持っていました。

一方で、ソクラテス以降の哲学者たちは、作られてあると考えるようになります。

正確には、ソクラテスはここまでの主張はしていませんが、彼の弟子の「プラトン」によって、「作られてある思想」は推し進められました。この思想は「プラトニズム」とも呼ばれ、プラトン以降、ヨーロッパ世界を、この考え方が規定することとなります。

ソクラテスは、プラトンが始めた「作られてある」思想の、いわば土台・基礎を準備したと言えます。

10分でわかるプラトンの思想の本質 – イデア論、形相、質量をわかりやすく

つまり、ソクラテスは、古代ギリシャで当たり前だった「自然の中に包まれて、`なり出でて`様々な存在が生き生きと生成する」という価値観から脱して「自然に存在するものは、死せる物質で、全てが`作られてある`」という価値観に大転換するきっかけを作ったというわけです。

ソクラテスの思想とは?

では「作られてある」思想、つまりプラトンの思想への土台をソクラテスは作ったわけですが、彼の思想について詳しく見ていきます。

ソクラテスの特殊性は、主張や教訓のような、これといった主張を一切持っていないところです。本当に徹底して彼は何も主張していません。つまり、何も自分は分からない、知らないという徹底した立場が彼の主張だったと言えるでしょう。

ソクラテスの思想は、この世のなかの知識や知恵といったものを一切否定し、何もない、無であるという思想

ソフィスト(知識人・学者)との問答

なぜ、ソクラテスは賢人と呼ばれながらも、知識や知恵を否定する立場をとったのでしょうか?

それは、ソクラテスが「アテナイ(当時のソクラテスの国)で最も賢人であるのは「ソクラテス」である」という神からのお告げを受けたと言います。しかし、ソクラテスは自分が最も賢人なはずはないと、様々なソフィスト(知識人・学者)と、問答をしていきます。

問答をする中で、ソクラテスは、ソフィストは知識や知恵を持ち合わせていると自称しながら、決してそうではないことに気がつきました。みな自分の知識を得意げに披露し、全て分かった顔をしていましたが、問答するうちに、誤りや無知が露呈してきたと言います。

ソクラテスは、このソフィストたちと自分の違いは何かを考えました。そして「何も知らないことを知っている」という意味でソフィストとは違うと自覚します。この何も知らないと知っているという「無知の知」を持っているから、神が私を賢人だと告げたのだと考えたわけです。

ソクラテスの思想からプラトンへ

ソクラテスの思想は、いわば世の中の知識や知恵や、あらゆるものを否定しています。つまり、古代ギリシャが培ってきたあらゆる文化や風習までもを否定して、ある意味大ナタを振るって無価値にしたといっても良いでしょう。

しかし、ソクラテスの思想はそこで終わりです。普通何かを否定するという行為は、一方の何かを肯定したいから行う行為ですが、ソクラテスは何も肯定はしていません。

アイロニー(皮肉)の語源
ソクラテスの肯定するものもないのに、あらゆるものを否定することをアイロニー(皮肉)と呼んでいます。現代ではアイロニーは、肯定する気がないのに、あえて肯定することを皮肉っぽいと言いますが、元々の意味は異なります。ソクラテスのアイロニーは、否定のための否定と呼ばれます。

そこで登場するのが「プラトン」です。彼は、「世の中全てのものは価値がないというソクラテスの価値観」から、「世の中の全てのものは神のみが知れる真の姿の模造に過ぎない」という考えへシフトさせます。

ここからかなり西洋色が強くなるのですが、つまり、神という超自然的な原理を設定して、その神がこの世界を形作っているのだ「作られてある」のだという価値観へとシフトしたということです。

プラトンについて詳しく知りたい方は下記リンクで解説しています。

10分でわかるプラトンの思想の本質 – イデア論、形相、質量をわかりやすく

ソクラテスの思想の歴史的背景

ソクラテスがなぜ、このように全てが無価値であると考えるようになったのでしょうか?ある意味ものすごく捻くれてしまった訳ですが、彼がいきた時代背景を知ると、それを理解できます。

彼が生まれたのは、第二次ペルシャ戦争終結の10年後の紀元前469年ごろでした。終結したとはいえ、いつペルシャに襲われるか分からない状況だったため、ギリシャでは小規模な都市国家を形成していました。

その国家は大きく二つの陣営に分かれていました。一つがアテナイ、もう一つがスパルタです。アテナイは、民主的な政治体制で、スパルタは少数寡頭制と呼ばれる限られた人間によって国が動かされていました。

アテナイとスパルタは、そのような違いから「ペロンポネーソス戦争」と呼ばれる戦争を長い間続ける訳ですが、その最中にソクラテスはアテナイに生まれました。そして、何度が戦争に従軍もしています。

アテナイは民主的な政治体制だったと説明しましたが、実情は大変愚かなもので、衆愚政治と揶揄されるほどでした。

衆愚政治とは?
腐敗した民主政治の形態の一つ。古代ギリシアにおいて,大衆の参加する民主主義は結局愚劣で堕落した政治に陥ると考えられた。なお,近代においても貴族主義者やエリート主義者は同じように考えてきた。コトバンク

学がない人も、弁がたてば、国民を扇動して、本当に非人道的なことをしたりしていました。例えば、ある小国がスパルタに寝返ったので、「全員皆殺しにしよう」なんて案が可決されるほどで、そんなものだから、だんだんと国の力も衰えていきました。

最終的には、アテナイの敗北、そしてスパルタの勝利でこの戦争は終結する訳ですが、戦争の戦犯をソクラテスは取らされることになります。なぜソクラテスが犯罪人として扱われたのかというと、彼の弟子たちが戦争で反政府的な活動をしていたからで、結局ソクラテスは死刑になってしまいます。

ざっくりとした流れを説明しましたが、ソクラテスは激動の中で生きていた事になります。彼があらゆる知識が無駄で意味のないものであると考えることは、当然の帰結だったのかもしれません。

ソクラテスの弁明とは何か?

ソクラテスは、激動の時代を生き抜いたといっても良いでしょう。最終的に死刑になってしまうのですが、その死刑に至るまでの細かな経緯が「ソクラテスの弁明」という本に書かれています。

この本は、弟子のプラトンが書いた本なのですが、実はソクラテスは自ら本を一切書かなかった人物なんですね。プラトンがいなければ、ソクラテスはここまで偉大な哲学者として語られなかったでしょうし、プラトンが形成した「プラトニズム」という西洋を支配する思想がとても影響力があったと言えるでしょう。

ソクラテスの弁明、についてなのですが、この本で語られていることは、主に先ほど説明したソクラテスの思想に帰結するのですが、特筆すべき点が一つあります。

元々、ソクラテスは民主制を批判してアテナイを混乱に導いたという罪に問われた訳ですが、彼は弁明の中で、「民主制を否定はしたが、だからと言って少数寡頭制を支持したわけでも無い。むしろ少数寡頭制にも断固否定する」と答えています。

つまり、彼は現体制が気に入らないというわけではなく、世の中のあらゆるものに対して否定しているのだと弁明したわけです。

哲学を知るのにおすすめの本

木田 元 (著)

私が哲学を学ぶ上でおすすめしたい本は「反哲学入門」です。

様々な哲学本を過去読んできましたが、ここまで哲学史を体系的にまとめている本はありません。入門書としてこの一冊を読んでおけば、専門的な本を読んだとしても、かなり理解しやすくなると思います。哲学とは一体何か?というところにフォーカスして様々な哲学者を解説しており、基礎的な理解をする助けになります。

まとめ

ソクラテスの思想についてまとめました。ソクラテスは偉大な哲学者だと思われますが、実は彼の思想は徹底的な「無」でした。古代ギリシャでは、日本のようにごく自然な世界観を構築していたのですが、ソクラテスはそこに大ナタを振るってまっさらに整地した人物と言えるでしょう。

そのまっさらな土地に、プラトンが西洋ヨーロッパ特有の「作られてある」思想を構築し、一大ムーブメントとなり近代までその考えが支配する事になります。「作られてある」思想はキリスト教とも考えを共にしながら、一時代を作っていきます。

つまり、ソクラテスはプラトンがもし存在しなければ、ただの中世ギリシャの皮肉屋だったかもしれません。プラトンが「ソクラテスの弁明」を伝えた事で、ソクラテスの思想が広く知れ渡る事になりますが、そこにプラトン的なエッセンスが含まれているかというと、そうではありません。全てをぶち壊してくれたおかげで、プラトンの異様な考え、異教徒風だとも言われる考えを堂々と発現できたと言えるでしょう。

続いて、ソクラテスの弟子のプラトンについて知りたい方は、下記のリンクで解説しています。

10分でわかるプラトンの思想の本質 – イデア論、形相、質量をわかりやすく

2 COMMENTS

sumishi

最終的には、アテナイの敗北、そしてスパルタの勝利でこの戦争は終結する訳ですが、戦争の戦犯をアリストテレスは取らされることになります。なぜアリストテレスが犯罪人として扱われたのかというと、彼の弟子たちが戦争で反政府的な活動をしていたからで、結局ソクラテスは死刑になってしまいます。

という文の中で、アリストテレスと表記されている箇所はソクラテスと訂正して解釈するべきでしょうか。

返信する
numa56

こちらご指摘いただきありがとうございます。文章を修正してアップロードしました。

返信する

sumishi へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください