フリードリッヒ・リストは、1789~1846の間に活躍したドイツの経済学者です。
当時の経済学の主流は、イギリスのアダムスミスをはじめとする「古典派経済学」で「自由放任」にして市場にまかせれば良いというものでした。
しかし、リストは「自由放任」を批判して、「保護貿易政策」を推奨した珍しい経済学者でした。この記事では彼の理論について5分で理解できるように解説します。なお経済学の前提知識は必要ありません。
経済学全体についてざっくりと理解したい方は下記のリンクで解説しています。経済学を俯瞰することで、よりこの記事の理解が深まります。
わかりやすい経済学 – 古典経済学から近代経済学まで10分でざっくり解説フリードリッヒ・リストが生きた時代
フリードリッヒ・リストが生きた時代のドイツは、イギリスと比較して、まだまだ未開の地でした。
200以上の小さな領域に分かれて国が乱立し、それぞれの国は封建制でした。ちょうど日本の戦国時代のような状況です。
それらの領域が、それぞれ独自の関税を設定しており経済は停滞していました。そこでドイツは関税率を一律で下げるという政策をしたところ、イギリスから大量に安価な工業製品が輸入され国内は混乱しました。
当時のドイツ国民も、アダムスミスやリカードを信頼していましたから、「それではいけない」と立ち上がったのがリストでした。
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つまり、経済学の理論上は、自由放任が良いと言っているけど、実際のドイツの状況を見る限り、イギリスとの関税をなくしたせいで非常に貧しくなってしまったのです。どうすれば良いのか?新たな理論の構築が必要なのではないか?と奔走したのがリストでした。
自由競争は「同じ発展段階」の二国間でのみ有効
イギリスとの関税を低くしたら、ドイツは貧しくなってしまった、自由競争が良いとアダムスミスは言うけれど、その考え方が有効なのは条件があるのではないか?とリストは考えました。
リストは、「自由競争は、同じ発展段階にある二国間でのみ有効である」と説きました。この考えが「経済学の国民的体系」で言いたかったことです。
この理論は我々も直感的に理解できるかと思います。例えば、アメリカとアフリカのガーナが対等な貿易で経済的恩恵を受けれていると到底思えません。
経済発展の5段階
リストは、国の経済発展を5段階に分類し、同じ段階にいる国同士でのみ自由貿易を行うべきだとしました。
経済発展の5段階は下記の通りです。
- 未開
- 放牧
- 農業
- 農工
- 農工商
「3. 農業」は、小麦の生産などの農業のみを行なっている段階です。「4. 農工」は農業と工業が盛んな段階です。「5. 農工商」は農業も工業も商業も活発な段階です。
リストは、当時のイギリスは「5.農工商」の段階だが、ドイツはまだ「4.農工」状態だと説きました。
このように、経済発展が同じ段階に到達するまでは、関税を高くするなど「保護貿易」を行い、対等に戦える段階になってから「自由競争」にすべきだと説きました。
新しすぎて不遇なリスト
リストはとても不遇でした。その理由は、当時アダムスミスの考えを信じる人達が主流で、リストの考え方は多くの人に支持されず迫害されたからです。
リストは当時の首相に当たる人物に迫害され続け、各国を転々としたのちに、最終的にはピストルで自殺しました。
まとめ
リストの「経済学の国民的体系」について解説しました。
保護貿易政策は、今となっては自国の産業を守るために使われる一般的な方法となりましたが、当時としてはかなり斬新な考え方で、多くの迫害を受けました。
しかしながら彼の考えは、アダム・スミスやリカードの考え方を否定しているわけではなく、それらで説明できない部分を補強し、正当な競争を促し経済発展を促す革新的な理論でした。
現在のアメリカですら、自国の産業を守るために保護貿易政策に舵を切っています。お互いの貿易を守りつつ競争ができそうなタイミングで自由競争にする、というのは、もしかすると世界全体で見たら、経済を前に推し進める有効な手段なのかもしれません。