『貨幣発行自由化論』の著者フリードリヒ・ハイエクは、オーストリア学派を代表する経済学者であり、新自由主義の思想家として知られています。
ハイエクの代表作として最も有名なのは『隷属への道』です。この本では、社会主義やケインズ的な大きな政府を批判し、自由主義の立場を強く打ち出しました。詳しくは下記の記事で解説しています。
近年、ビットコインをはじめとする暗号資産の登場によって、ハイエクの『貨幣発行自由化論』が再び注目されています。この記事では、この本の主張をできるだけわかりやすく整理して解説します。
新自由主義とは?
ハイエクの経済思想の根底にあるのは、新自由主義です。
新自由主義とは、簡単に言えば「市場に任せておけばうまくいくのだから、政府は余計な介入をするべきではない」という考え方です。
「市場に任せておけばうまくいく。よって政府は余計な介入をするべきではない。」
政府の市場介入の代表例としては、医療、福祉、規制、免許制度などがあります。新自由主義は、それらをできるだけ縮小し、民間の自由競争に任せた方が効率的だと考えます。
極端な例でいえば、医師免許制度すら不要だとする立場もあります。
その理屈はこうです。医師免許によって医者になれる人を制限すると、腕の悪い医者でも市場から退出しにくくなります。しかし、医師免許をなくして自由に競争させれば、腕の良い医者には患者が集まり、腕の悪い医者は淘汰されるはずだ、という考え方です。
つまり、政府が守るよりも、市場競争の方が消費者にとってよい結果をもたらすという発想です。
この考え方は、政府の介入を最小限にして、市場の「見えざる手」に委ねるべきだとしたアダム・スミスの考え方にかなり近いものです。
貨幣発行自由化論とは?
ハイエクの提案を要点だけにまとめると、次の4点になります。
- 中央銀行による貨幣発行の独占をなくす
- 民間企業が、国境を超えて独自通貨を発行できるようにする
- その通貨は、特定の財または複数の財に対する購買力が安定するよう発行量を調整する
- 企業は通貨の購買力データを公開し、不安定な通貨は市場から退場する
① 中央銀行による独占をなくすという点ですが、現在は一国の中で独占的に通貨を発行できるのは中央銀行だけです。
ハイエクは、通貨を一種類に統一したことで取引は確かに便利になったが、その一方で、国家が通貨を独占することによる弊害の方が大きいと考えました。
② 民間企業が独自通貨を発行するというのは、銀行や企業が自社の責任で通貨を発行し、利用者に選ばれる仕組みにすべきだという意味です。
③ 購買力を安定させるという点は少しわかりにくいですが、たとえば、ある企業が「Kコイン」を発行し、「1Kコインは一定量の資産と交換できる」と定めるイメージです。
そのとき、その交換レートが大きく変動しないように、通貨発行量を調整する責任を発行者が負います。
ここで重要なのは、金本位制のように裏付け資産が固定されている必要はないということです。ハイエクは、裏付けとなる財は状況に応じて入れ替えてもよいと考えていました。

たとえば、自社株を裏付け資産としていた通貨が不安定になってきたら、別の資産に切り替えたり、複数の資産の組み合わせに変えたりしてもよい、という考え方です。

④ 発行者は購買力データを公開し、利用者はそれを見て通貨を選びます。
もし著しく不安定な通貨なら、利用者はより安定した別の通貨へ移ります。つまり、市場競争によって不安定な通貨は自然に淘汰されるべきだというのがハイエクの考えです。
なぜ通貨を自由競争させるべきだと考えたのか?

ハイエクが通貨発行の独占を批判した背景には、各国政府の巨額な財政赤字があります。
なぜ政府はそこまで赤字を膨らませるのか。ハイエクは、その原因の一つが、国家が通貨制度を独占していることにあると考えました。
そのきっかけとして大きかったのが、世界恐慌と、それに対するアメリカのニューディール政策です。
ニューディール政策では、政府が大規模な公共事業を行い、雇用と需要を生み出して景気回復を図りました。これは、ケインズ的な「大きな政府」の代表例です。
ケインズの理論では、景気が悪いときは政府が赤字を出して需要を支え、景気が回復したら増税などで赤字を埋めればよいとされました。
ところが、現実にはそう簡単にはいきませんでした。
景気が回復したあとに増税や歳出削減を行えば、国民の反発を受けます。政治家も選挙で勝たなければならない以上、景気回復後に厳しい財政再建策を取りにくいわけです。
その結果、政府は赤字支出を続け、財政赤字だけが積み上がっていくことになります。
ハイエクは、こうした問題の背景には、政府と中央銀行が通貨制度を独占し、競争にさらされていないことがあると考えました。
つまり、単一通貨には取引を円滑にする利点はあるものの、それ以上に、政府による通貨濫用を許してしまうという重大な欠点があると考えたのです。
ビットコインとの関係
近年、ハイエクの貨幣発行自由化論が再評価されている理由のひとつが、ビットコインをはじめとする暗号資産の登場です。
ビットコインは国家や中央銀行ではなく、分散的な仕組みの中で運営される通貨です。その意味で、「国家の独占から自由になった通貨」という点で、ハイエクの思想を体現していると見ることができます。
もちろん、ビットコインそのものは価格変動が大きく、ハイエクのいう「安定した購買力を持つ民間通貨」とは完全には一致しません。
それでも、通貨を国家の独占物ではなく、市場競争の対象として捉える視点を広めたという意味で、ハイエクの議論との共通点は非常に大きいです。
まとめ
ハイエクの『貨幣発行自由化論』をまとめると、主張の核心はとてもシンプルです。
新自由主義の根底には、「人々には選ぶ自由があるべきだ」という考えがあります。
国が何でも決めるよりも、地方に任せた方がよい。なぜなら地方が合わなければ人は移動できるからです。同じように、通貨も一つに固定するのではなく、人々が自由に選べた方がよいとハイエクは考えました。
つまりこの本の本題は、「通貨にも自由競争を導入すべきだ」という一点にあります。
ビットコインをはじめとする暗号資産は、この思想を部分的に現実化した存在だとも言えます。テクノロジーの進化によって、通貨のあり方そのものが変わる時代に入りつつあるのかもしれません。



仮想通貨は安定してるか?むしろ不安定極まりないですが。
財政赤字なんて気にする必要ないのに。家計簿脳で国家財政を考えてはいけない。