マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」は、資本主義経済に順応し「発展を遂げた国」と、「そうでない国」の間には、宗教の違いがあることを解明した名著です。
大学などの教育現場では「プロ倫」と呼ばれるこの本は、経済学を学ぶ人のみならず、一般教養として世界の多くの人に知られています。
この記事は、この「プロ倫」について5分で理解できるように解説します。非常に難解に思われているこの本ですが、言いたいことは非常にシンプルです。
マックス・ウェーバーとは?
マックス・ウェーバーは、ドイツの社会学者で、政治学・経済学・歴史学など社会科学全般にわたる業績を残しています。彼の著書『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」は、社会学・経済学に多大な影響を与えました。
1864年〜1920年まで活躍し、彼の際立った業績は当時のマルクス主義における「唯物論」を反証したことでした。
「物質(マテリアル)」と言うと非常に分かりにくいですが、簡単に言うと、物を売ったり/買ったりする経済活動のこと。つまり唯物論は「経済」が土台となり、歴史や文化、国家等の社会を規定するという考え。
マルクス主義については、下記のリンクで詳しく解説しています。
マルクス主義をわかりやすく解説 – 思想や問題点を10分で簡単に説明 –しかしウェーバーは、”唯物論的” な、経済活動が土台となって、政治や宗教、文化が作り上げられているという考えを真っ向から否定します。
この「プロ倫」は、唯物論的な考え方を否定し、経済活動の多くは、「宗教」に大きく依存しているということを解明した本でした。
プロ倫:プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神とは?
プロ倫理とは簡単にいうと、
ヨーロッパにおいて、キリスト教の「プロテスタント」を信仰する国々は、経済発展を遂げている一方で、
「カトリック」や「ギリシャ正教会」を信仰する国々は、経済発展をしていない理由は何故なのか?を解説した本です。
当時のヨーロッパでは、経済発展を遂げて豊かな国と、そうでない国の間で大きな格差が広がっていました。ウェーバーは、この格差は「宗教」の違いによって引き起こされているのではないか?と考えました。
ヨーロッパの経済危機
現在のヨーロッパにおいても、ウェーバーの主張と同様の状況にあると言えます。
記憶にまだ新しい2013年に、ヨーロッパの経済危機が起きました。この経済危機を引き起こした国々はPIIGSと呼ばれる国々です。
PIIGSとは、下記の国々です。
P:ポルトガル
I:アイルランド
I:イタリア
G:ギリシャ
S:スペイン
これらの国々は、全てプロテスタント以外の宗教を信仰しています。ギリシャは、ギリシャ正教会ですし、それ以外のポルトガル、アイルランド、イタリア、スペインはカトリックです。
現代においても、「経済発展」と「宗教」は密接に関係していると考えられます。
カトリックとは?
カトリックを経済的な側面からみた特徴は、巨大組織の「ローマ教皇」が存在し、民衆は教会に沢山の寄進をすることで天国に行けるという考え方です。
寄進する代わりに、免罪符を受け取り、その数によって天国に行けるかが決まります。
もともと、キリスト教はカトリックが主流でしたが、この考えに対して教会の腐食だと批判する人が現れます。宗教改革を推し進めて、後にプロテスタントを立ち上げるマルティンルターです。
プロテスタントとは?
マルティンルターとカルヴァンは、どれだけ寄進したかによって、天国に行けるかどうかが決まるカトリックの考え方を、教会の腐食だと批判しました。また、当時の民衆からも、お金を払うことで天国に行けると言う考え方は、批判を集めていました。
そこで「ルター」と「カルヴァン」は、新しい価値観に基づいた、プロテスタントという宗派を立ち上げました。
予定説:プロテスタントの価値観
プロテスタントの重要な考え方として予定説があります。予定説とは人は生まれながらにして、神に救われるかどうかは決定しているんだという考え方です。
教会にいくら寄進したかは関係なく、もともと神に選ばれている人だけが天国に行けるのだ、と説きました。
プロテスタントは不安だらけ
プロテスタントの信者たちは、神に救われるかどうか確認するすべがありません。そのため毎日不安に苛まれました。
カトリックと異なり、誰でも寄進をすれば報われるわけではないので、自分は救われると神に定められているのか、確認しようとしました。
天職が神からの啓示
カルヴァンは「神様は、予定説によって、救われると定めた人に、使命を与えている」と考えました。プロテスタントは、職業を天職と捉え、神様から与えられた使命だと捉えました。
この考え方によって、プロテスタントは神に救われるかどうか確認したい一心で、一生懸命働きました。懸命に働いて、「職業という使命」を全うすることができれば、神から選ばれしものなのだと考えることができるからです。
生産は拡大していく
プロテスタントは、とにかく不安で一生懸命働きました。
一生懸命働くので、たくさんお金が貯まります。たくさんお金が貯まったら、パーっと浪費するのかと思いますが、プロテスタントは違います。そのお金を使って「より天職を全う」できるようにしようとしました。
つまり、布を作る職人であれば
- 設備に投資してもっと生産できるようにする
- 労働者を雇ってもっと生産する
- 他の事業も拡大する
というように、どんどん生産量を増やしていきました。マルクスの資本論で解説したように、資本主義とプロテスタントの倫理観はとても相性が良かったのです。
10分でわかるマルクスの「資本論」入門。初心者にも分かりやすく要約・解説します。プロテスタントはアメリカに渡る
プロテスタントは、ヨーロッパにおいて宗教的な弾圧を受けてアメリカに渡りました。
しかし、マックスウェーバーはアメリカにプロテスタントが渡る際に、宗教的な背景が抜け落ちて、資本主義的精神だけ生き残ったと説きました。
その理由として、プロテスタントは、はじめこそ宗教的な背景から勤勉に働いていましたが、そのような社会が出来上がると、その勤勉さのみが子供へと受け継がれていくからです。アメリカへ渡った人たちは、プロテスタントの第2世代のような人々だったと言われています。
まとめ:日本人はなぜ勤勉か?
日本人はなぜ勤勉なのでしょうか?
アメリカに渡ったプロテスタントも、その勤勉さは元を辿れば宗教的背景がありまふが、世代が移り変わるにつれて失われていきました。
日本人も勤勉さも、元はと言えば宗教的なものや、言い伝えによるのかもしれません。しかし現代の人にとっては、勤勉さは文化的な抑圧の鎖として生きにくくしているのかもしれません。