ミクロ経済学の授業では必ず出てくる「限界効用理論」はフランスの経済学者ワルラスによって提唱されました。
この記事では、ワルラスの限界効用理論については可能な限りわかりやすく解説していきます。なお経済の基礎知識は必要ありません。
限界革命が近代経済学を生み出した
1870年代イギリスの「W.S.ジェボンズ」、オーストリアの「C.メンガー」、フランスの「L.ワルラス」が相次いで「限界効用理論」を言及するような著書を発表しました。
後に「限界革命」と呼ばれ、近代経済学の始まりとも言われています。
それ以前の経済学は古典経済学と呼ばれ哲学的、観念的な部分が多く、理論と言えるものではありませんでした。古典経済学の父として知られているのはアダムスミスですね。かの有名な言葉「神の見えざる手」と言った人です。
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限界革命以降、感覚的に社会を捉えた古典経済学から、より理論的に体系立てて経済というものに対して分析が可能になり始めます。
限界効用理論とは?
限界効用理論とは、「限界効用」という概念を軸にして展開された経済学理論のことを言います。
つまり、限界効用理論の軸となる考え方は「限界効用」です。この理論の基礎を理解する為には限界効用をまず理解する必要があります。
効用とは?
限界効用を理解する前に、効用という言葉を理解する必要があります。
効用は、簡単に言えば「満足度」のようなものです。効用(満足度)の持つ性質として「消費する財の量を増やせば増やすほど増加しにくくなる」と言われています。
例えば、消費財を「パン」だと考えましょう。一つのパンを買う満足度よりも、二つパンを買う方が満足度が高くなるはずです。
しかし、1つのパンから2つのパンに増えた時の効用の増加分よりも、99個のパンから100個のパンに増えた時に増加する効用の方が少ないはずです。グラフで効用を描くと以下のような形になります。下の画像のようなグラフを効用関数と呼びます。
効用は消費量を増やせば増やすほど単純に増えるわけではなく、増えにくくなる性質があります。
限界効用とは?
限界効用とは「ある財の消費を一単位増やした時に増える効用」のことです。つまり上の効用関数のグラフの傾きが「限界効用」となります。
限界効用逓減の法則
「限界効用」は、単位数を増やせば増やすほど小さくなっていきます。
パンの例で説明したように1個から2個に増える効用の増加分よりも、99個から100個に増える際の効用の増加分の方が小さいはずです。この法則を「限界効用逓減の法則」と呼んでいます。
複数の財を考える
上記の限界効用の概念がワルラス経済学の基礎となります。
限界効用は1つの財について考えていました。例として「パン」をあげましたが、ある特定の1つの財の効用についての理論です。
ワルラスは一般均衡理論へと展開していく中で、複数の財についての理論を展開します。
無差別曲線
効用関数は、1つの財(商品)に対しての関係を見てきました。この無差別曲線は、2つの財に対して効用が最大になる最適なバランスを考えます。
財Xと財Yの単位数と効用の関係を表すと下のようなグラフになります。
限界代替率
限界代替率は、財Xを一単位増やした時の、財Yの増加値です。無差別曲線の傾きで表されます。
「ワインを財X」「ビールを財Y」とすると、ビールを一単位増やした時に、効用が一致する「ワインの減少値」が限界代替率です。簡単に言うと、どれだけ替えが効くかと言うことを表します。
限界代替率逓減の法則
限界代替率逓減とは、ある一方の財を増やしていくと、もう一方の財で代替できるには限界があるという理論です。
ワイン5本とビール5本と同じ効用が、ワイン1本とビール9本となるでしょうか?
両方合計10本ですが、効用は後者の方が下がるはずです。つまりある一定までは財Xと財Yは代替がききますが、一定の水準までくると替えが効かなくなります。これを限界代替率逓減の法則と呼びます。
予算制約線
2つの財の最適なバランスを見てきましたが、実際には無限に財を購入することはできないので、予算の制約があります。それを表したグラフが予算制約線です。
予算制約線は、
- 予算:M
- 財Xの価格: Px
- 財Yの価格:Py
とした場合に、購入できる限界数量の直線です。x軸の切片がM/Px、y軸の切片がM/Pyで表されます。それら2つを結んだ直線が予算制約線です。
「予算制約線」に「無差別曲線」を加えると下の図のようになります。
つまり、財Xと財Yの無差別曲線と、予算制約線が交わる点が、効用が最大になる財のバランスだと言うことです。
この値を「最適消費点」といいます。またこの時、効用が最大化する条件は「価格比=限界代替率」となる時です。
まとめ
ワルラスが展開した限界効用理論は、のちの近代経済学の礎となっています。下記リンクでミクロ経済学について解説していますが、ワルラスの理論が基礎となっています。
我々が無意識に理解している需要曲線は右上がりだということを、緻密な計算式を用いて導出したことに彼の功績があります。
もともとアダムスミスによって「需要と供給は市場が自動的に調節するのだ」と提唱されたのですが、それを論理的に正しいと導いたことにワルラスの理論の価値があります。我々を豊かにしている経済は、彼らの努力の上に成立しているのかもしれません。