10分でわかるダグラスの社会信用論 – ベーシックインカム(BI)の祖

ダグラスの社会信用論は、現在まで続く金融システムを痛烈に批判し、政府通貨の発行と国民配当を提唱しました。今でこそベーシックインカム(BI)という考え方は一般的ですが、当時はかなり革新的な考え方でした。

ダグラスの社会信用論は、資本主義が停滞し始めた今こそ、読み返す必要性があるのではないでしょうか。海外でかなり再注目されてきています。

なお、この記事は下記の社会信用論を元に記載しています。

クリフォード・ヒュー・ダグラスとは

クリフォード・ヒュー・ダグラス(Clifford Hugh Douglas)はイギリスで1879年に生まれ、1952年に死去しています。

かなり異色の経歴で、産業機械工学博士、産業電気工学修士、技術顧問などのエンジニア的な側面を持ちながら、エコノミスト、著述家としても活躍しています。そして社会信用論という書籍を残しています。

ちなみに彼は、カナダ・ジェネラル・エレクトリック社、ラシーン・ラピッズ・ハイドローリック・コンストラクションの技術助手などの大企業の技術者として務めながらも、第一次大戦中は、英国王立空軍航空兵科で少佐を務めています。

彼の大企業の技術者を務めたという経験から、100以上の大企業を調査していくことになります。そして、「社会信用論」を展開していきました。

社会信用論とは

社会信用論の書籍の冒頭は下記の文で始まります。

社会系信用論 序文
本作の初稿は、金融理論と、社会、産業、哲学のあるべき姿を相互に関連づけるために書かれた。

この本は、経済についての論文ではなく、様々な考え方を複合して、社会信用について書いています。また、金融システムによって得られた現在の繁栄は、このままいくと必ず崩壊するだろうと述べています。

また、ダグラスは賞罰教育そのものを批判しています。賞罰教育とは、良いことをしたから経済的に報われた、悪いことをしたから報わらないというような、在り方全般のことを言います。人間の考え方、つまりは哲学的な背景から批判しています。

MEMO
哲学とは「モノの考え方、捉え方」のことです。〇〇だから、こうであるというような因果律をもとにした帰納法など、考え方そのものなども考察しています。

︎預金は借金

ダグラスは、金融システムの欠陥を簡潔に述べています。

つまり誰かの預金は、借金の返済にいずれ使われるということです。通貨の発行は中央銀行のみが行なっています。政府や一般銀行は、中央銀行からの借金という形でお金を受け取っています。

つまり、あなたの預金は、厳密には中央銀行からの借金です。国の借金を返済しようとすればあなたの預金は消えて無くなることになります。

自分の資産だと思っていたものでさえ、取り上げることができるほど金融システムの力は強大であるとダグラスは批判しました。

中央銀行の仕組みについては、下記のリンクで記載しています。金融システムの課題について理解できます。

10分で分かる中央銀行の仕組み。中央銀行と紙幣の歴史

︎A+B理論とは?

ダグラスの理論の核心はA+B理論です。A+B理論とは、「常に商品の価格は、所得分配よりも上回る」ということです。

例えば、新たなラジオを作ろうとする会社があるとします。銀行からの融資で、資金(B)を借金し、設備投資などを行なって、従業員の給与(A)を払いながらラジオを生産します。するとラジオの価格は、設備投資などの資金(B)+従業員の給与(A)を加味した価格が設定されることになります。

つまり、商品の価格はA+Bで設定されますが、給与はAしか支払われません。
必ずA+B > Aという不等式が成立することになり、従業員に支払われる給与からの需要のみでは、供給を満たす事ができないことを指摘しました。

 

︎富の源泉は生産にある

ダグラスは既存の金融システムは奴隷を作るシステムだと批判します。あなたが資産だと思っていたものでさえ、銀行が取り上げることができるからです。

上記で、預金は借金であると述べました。またA+B理論でも述べたように、生産力より購買力が必ず下回ってしまうという問題も指摘しました。

MEMO
ダグラスは、生産力があるにも関わらず、購買力がない状態を、豊かさの中の貧困と述べています。現代ではよく言われていることですが、100年近く前にダグラスも述べています。

このような金融システムの問題がある中で、ダグラスは生産力が富の源泉であり、その富の源泉から購買力のための給与を分配すべきだと述べています。

既存のシステムは、富の源泉はマネーの流通量でした。このマネーは銀行からの借金でまかなわれます。一方、ダグラスは、生産量と同額のマネーを流通させることを提唱しています。つまり、生産できることが社会の富であるという考え方です。

この理屈はとても単純です。1人で生きていれば、お金は何の役にも立ちません。しかし、健康な体や畑があれば生きていくことができます。富の源泉を生産力としようと提唱しています。

では「生産力と同額のマネーをどのように流通させるのか?」というと、ダグラスは国民配当という形で、全員に配ろうと提唱しています。供給と需要のギャップを全員に配ることによって埋めてしまおうとしました。

ベーシックインカム(BI)の祖

ダグラスは国民配当(ベーシックインカム)を初めて提唱した学者です。

現代では国民の需給ギャップを埋めるためにベーシックインカムを導入しようという動きが先進国で見られます。

ダグラスは資本主義の限界を予期していたのかもしれません。今まさに経済の行き詰まりが起きています。ダグラスの資本論を見返す時なのかもしれません。

おすすめの書籍

この記事は下記の社会信用論の原文の日本語訳を元に記載しています。社会信用論の書籍は下記しかほぼ出版されていません。社会信用論について詳しく理解したい方は下記の書籍を読むことをお勧めします。原文ですので非常に難しくはありますが、深く理解するのにおすすめです。

 

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