アマルティア・センはインド出身の経済学者で、ノーベル経済学賞を受賞しています。
この記事では、センの主要な著書である「貧困の克服」について、5分で理解できるように解説します。この本は4つの講演をまとめたものなので、内容はわかりやすいです。
一般的には経済学の本は難解なものが多いのですが、興味を持たれたらぜひ原著を読むことをおすすめします。
アマルティア・センとは?
アマルティア・センは、インドの経済学者です。アジア人として初のノーベル経済学賞を受賞しています。ちなみに日本で受賞している人は1人もいないので、いかにすごいことか分かるはずです。
そんなセンですが、非常に日本が大好きです。日本どころかアジア全体に対して好意的な考えを持っています。西洋人に対しての反骨精神は凄まじく、アジアを一括りにされることを嫌い、アジアの多様性と文化の豊かさに誇りを持っています。
そんなセンですが、誇りあるアジアが、これからの将来性、貧困をどう克服していくのかということについて深い洞察とともに考えています。
日本の「東アジアの奇跡」に学ぶ
貧困の克服では、「東アジア戦略」を取るべきだとしています。センは、近年のアジアの急激な経済発展は、「東アジア戦略」と呼ばれる共通哲学によってもたらされていると考えました。
その哲学は、「まずは人間的発展を実現することが豊かな社会を作り出す」という考え方です。人間的発展とは「識字率の高さ」や「教育水準の高さ」などです。
当たり前じゃないか?と思う方もいるかもしれませんが、西欧では「社会が豊かになってこそ、人間的発展がもたらされる」と考えます。社会が豊かになることで、資源がいろんな人に行き渡り、字が読めるようになったり、勉強に時間が費やせて文化的生活が営めるようになると考えるのが普通でした。それをセンは西欧諸国がアジアを侵略する上での考え方に過ぎないと否定します。
ちなみにセンはこの「東アジア戦略」の立役者は、日本だとして例に挙げています。戦争に負けた日本がとった基本戦略は「基礎教育と医療」を普及させたことでした。まずは人間発展を目指し、その人間を財産として経済発展を果たした好例だとしています。
人間の潜在能力の向上に努める
では日本が取ってきた戦略は、つまりどのようなことかというと「人間の潜在能力の向上」を目指したことでした。
全ての人に教育を施せば、高度な仕事を多くの人ができるようになるため、世界的に競争力のある製品を作れるようになるかもしれません。また全ての人に医療を提供すれば、高い技術者が安定した環境で働き続けることができるため知識が蓄積します。
いわば、教育と医療は、経済発展する上での筋肉のようなものです。まずしっかりと基礎を固めましょうとセンは主張しました。
それもそのはず、当時のインドは官僚制が蔓延っており一部の人のみしか十分な教育と医療を受けることができず、多くの人が貧困に喘いでいました。自由競争に任せるのではなく、「まずは大きな政府で」公共福祉を充実させるべきと考えたんですね。
ちなみに当時は「新自由主義」が台頭しており世界全体が小さな政府を目指すべきとしていました。日本だと小泉政権のころです。センの思想は、自由主義は強者の思想で、まだ発展まもないアジアでは成立しないと考えました。
新自由主義について詳しくは下記のリンクで解説しています。
10分でわかる「新自由主義」-格差拡大の仕組みや批判も分かりやすく解説人間の安全保障の大切さ
センは、経済発展を果たして貧困を克服するには、まずは「潜在能力の向上」に努めるべきだと主張しました。
しかし、潜在能力の向上には、なくてはならない大切な要素があると考えました。それは「人間の安全保障」です。
人間の安全保障とは「人間の生存、生活、尊厳を脅かされないようにすること」です。「人間の安全保障」という言葉は、センが作った言葉で1994年の国連開発計画(UNDP)で発表しました。
この考え方の元となったのは、日本の小渕総理が1998年に行なった講演での言葉です。
「人間は生存を脅かされたり 、尊厳を冒されることなく創造的な生活を営むべき存在であると信じています 」
というものです。
人間の安全保障は非常に重要です。
せっかく高等教育を受けて、世界に負けない研究者になれても、病気で死んでしまっては元も子もありません。さらには民主主義も大切です。せっかく世界に誇る文学をかけても、独裁政権の検閲に引っかかっては意味がありません。
つまり政府は国民の「潜在能力の向上」に努めるとともに、国民の「安全保障」も強固なものにしなければ、貧困から脱して経済的に発展することはないだろうと考えたんですね。
まとめ
センの考え方は日本人であれば当然のことだと考えるかもしれませんが、多くのアジア諸国ではまだまだ珍しい考え方です。
日本はいち早く国民の人間の安全保障と潜在能力の向上に努めた結果、ここまで成長することができました。しかし、多くの国では教育や医療が全ての国民に行き渡っておらず貧困状態です。
センは、そのようなアジアの現状に対して、日本的なモデルで打開しようと考えて、その考え方を広めたという意味では偉大な功績を残しました。
日本は近年になり世代間格差と呼ばれる貧富の差が広がりつつありますが、センの言葉を借りるなら、改めて日本は教育と安全保障の整備が求められているのではないでしょうか。
原文で読むと、より深くセンの考え方を理解することができます。経済学の本では珍しく、非常に読みやすいので、おすすめです。