オーストリア学派は、古典経済学から近代経済学への移行に大きな貢献をした学派の一つです。
この記事では、非常に多くの理論を展開したオーストリア学派の基礎的考え方について、10分で理解できるように解説します。なお経済学の知識がなくても理解できるように記載します。
オーストリア学派とは?
オーストリア学派は、オーストリアの首都にあるウィーン大学を中心に形成されました。そのためウィーン学派とも呼ばれています。
オーストリア学派は、「限界効用」というミクロ経済学で一般的な理論を緻密に定式化しました。
下記のリンクにてミクロ経済学の限界効用について解説しています。
10分でわかるミクロ経済学 – 需要曲線や供給曲線をわかりやすく解説アダム・スミスをはじめとする古典経済学の考え方は感覚的、観念的な部分が多かったため、オーストリア学派は、それらを論理的に理解できる形で定式化することを試みました。
ざっくりいってしまえば、我々が学んだミクロ経済学の基礎を築き上げたと思ってもらえれば問題ありません。
オーストリア学派の根本的な考え方
オーストリア学派は、アダム・スミスの考えを引き継いでいます。アダムスミスと聞いて思い浮かぶのは、「神の見えざる手」ですよね。
実はアダム・スミスは国富論で「神の」とは言っていません。「見えざる手」とだけ書かれています。
この「見えざる手」は、簡単に言えば、「人々が欲しいと思えば、価格は上がるし、その逆であれば価格は下がる。そうやって市場は勝手に最適化されるので、経済はうまくいくんだ」という考え方です。
近代経済学では「需要曲線」と「供給曲線」という二つの線で表現されていたかと思います。
対極をなすケインズ経済学
オーストリア学派は、市場に任せて放っておけば良いという、言ってしまえば自由放任主義的な考え方です。
よく「小さな政府」と呼ばれているものです。
その対極をなすのが「ケインズ経済学」です。ケインズ経済学は不況が起きた時には、政府は借金をして大規模な公共工事を行います。
公共工事をするには、労働力が必要ですから、雇用が生まれます。雇用されれば給与がもらえるので、消費が増えます。消費が増えれば、その小売店も儲かります。
そのようにして不況時には政府が積極的に介入して、経済を刺激すべきだと説きました。アベノミクスも、ケインズ経済学を基礎にして政策を行なっています。
ケインズ経済学について下記で詳しく解説しています。ケインズ経済学も政府赤字が増え続けるという欠点があることが理解できるかと思います。
5分でわかるケインズの雇用・利子および貨幣の一般理論 | ケインズ経済学の基礎オーストリア学派の批判対象
オーストリア学派の、とりわけ大きな批判対象の一つは、中央銀行制度に対しておこなわれました。
中央銀行の仕組みについて詳しくは下記のリンクで解説しています。
10分で分かる中央銀行の仕組み。中央銀行と紙幣の歴史また、中央銀行に一定額担保を預けていれば、さらに大きな額を貸し出せるという、「信用創造」のメカニズムを否定しています。
信用創造とは、例えば、中央銀行に1億円預けていたらその5倍の5億まで貸して良いですよ。とするやり方です。5億貸し出されたお金は、その一部が再び銀行に預けられます。仮にその5億のうち再び3億銀行に預けられると、銀行はさらに15億貸し出すことができます。
そのようにしてどんどん、加速度的に貸出額が膨れ上がっていきます。
オーストリア学派は、そのような信用創造の仕組みがあるせいで、長期的なインフレやデフレさらには恐慌が巻き起こると否定します。
当たり前です。なぜなら貸し出されたお金は、簡単に言えば借金です。借金は将来の支出の前借りです。一時的に景気が上向いても、将来的には借金を返済しなくてはなりませんから消費が落ち込むことになります。
通貨発行も市場に任せれば良い
オーストリア学派は、紙幣の発行ですら中央銀行が独占するべきでないと説きます。
フリードリヒ・ハイエクの、「貨幣発行自由化論」では、通貨でさえも自由に発行させて市場競争させれば、より良い安定的な通貨が生まれると考えます。
下記のリンクで「貨幣発行自由化論」についてまとめています。
5分でわかるフリードリヒ・ハイエクの「貨幣発行自由化論」| わかりやすく要約例えば、日本円よりも安定した、MUFJコインが発行されたら、人はそちらを選ぶでしょう。そうなれば、政府は無駄な財政赤字をやめて通貨価値の安定に努めるかもしれません。
まとめ
オーストリア学派は、徹底した自由主義で市場に任せておけばうまくいくと考えます。
また、ケインズにより推奨された大規模な財政出動は、返って景気回復を後退させると批判しています。
シカゴ学派のフリードマンも、自由主義と言われていますが、ハイエクから影響を受けています。
5分でわかるフリードマンの「資本主義と自由」- 新自由主義をわかりやすく解説
アメリカでは、新自由主義に習い大規模な規制緩和や、公共福祉の削減を推し進めた結果、巨大な格差を生み出しました。
ケインズ経済学であれ、自由主義であれ欠点は必ずあります。双方の欠点を理解した上で、その欠点を補いながらより良い経済政策を取る必要があるのです。