貨幣発行自由化論の著者「フリードリヒ・ハイエク」は、オーストリア学派の新自由主義者です。
ハイエクで最も有名な著書は「隷属への道」です。この著書では、社会主義やケインズ的な政策を否定し、自由主義を提唱した本です。下記のリンクで詳しく解説しています。
5分でわかるハイエクの「隷属への道」要約。ケインズ思想との違い近年、ビットコインをはじめとする暗号通貨が登場したことで、再度この貨幣発行自由化論が注目されています。この記事では、このハイエクの著書を誰でもわかるように解説していきたいと思います。
新自由主義とは?
ハイエクの経済思想の根本にあるのは、新自由主義の考え方です。
新自由主義とは、簡単に言うと
「全て市場に任せていればうまくいく。よって政府は余計な介入をするべきでない。」
と言う考え方です。
政府の市場への介入として代表的なものが、公共福祉や医療です。そのような介入を縮小していって民間に任せた方が最も効率的だという考え方です。
極端な例を挙げると、医師免許でさえも廃止すればいいという立場が新自由主義です。
医師免許があり、医者になれる人を制限していることで、腕の悪い医者でも患者に困ることがないので、生き残ってしまう。そんなことなら、医師免許を廃止して、誰でもなれるようにして自由に競争させれば、腕の良い医者には人が集まり、悪い医者は人が集まらず廃業するだろうと考えます。
そうした方が、消費者にとってより良い世の中だろうと言う立場が新自由主義です。
政府が余計に介入するのではなく、自由なマーケットに任せておけば、神の見えざる手によって最適化されるというアダムスミスの考えに近いところがあります。
5分でわかるアダム・スミスの国富論(諸国民の富)- わかりやすく要約貨幣発行自由化論とは?
ハイエクの提案は簡単にまとめると次の通りです。(参考:VIII. Putting Private Token Money into Circulation, p46)
- 中央銀行による貨幣の発行の独占をなくす。
- 民間企業が、国境を超えて独自の通貨を発行する
- 独自の通貨は、特定の財、または複数の財に対する購買力が一定になるように発行量を調整する
- 企業は購買力のデータを公表する。著しく不安定だった場合、その通貨は捨てられ市場から消える
➊の中央銀行の通貨発行権の独占についてですが、一つの国において独占的に通貨を発行できるのは中央銀行のみと決まっています。
著書では、中央銀行のみが一種類の紙幣を発行することで、取引が円滑になったことは確かだが、それより多くのデメリットを生んでいると書かれています。
❷については、民間の銀行が独自の通貨を発行して普及させて良いということです。
❸は少しわかりにくいですが、例えばある銀行が、Kコインを発行したとします。1Kコインと、例えば自社株100枚と交換できると定めます。この交換レートが大きく変動しないように、通貨発行量を調整する責務を負うということです。
よく金本位制と勘違いされますが、そうではありません。後ろ盾になる財は、変更しても入れ替えても良いと述べています。
つまり、自社株の価値が下がってきて、交換レートが上がりそうとなれば、財を入れ替えたり、構成を変えたりしても良いと言うことです。株は不安定なので、一時的にゴールドに変えたとしても極端な話問題ありません。
❹については、購買力データを公表して、ユーザーが不満であれば他の通貨に移れるようにすると言うことです。
そうすれば、ユーザーはデータを参考にしながら、より安定的な通貨を選ぶことができます。不安定な通貨は駆逐される市場原理を働かせて、中央銀行への通貨へ圧力をかけ、行き過ぎた通貨発行に対してプレッシャーをかける意図があります。
なぜ通貨に自由競争をさせるのか?
この理論では、通貨発行権の独占を解き、自由に通貨を発行させて競争させるのが良いと述べられています。
なぜでしょうか?
その理由は、世界各国が抱える巨額な財政赤字にあります。
巨額の負債を抱えるきっかけとなったのは、世界恐慌でした。アメリカは恐慌を乗り越えるため、大規模な公共工事を行う「ニューディール政策」を行いました。大きな政府となり、政府が予算を拠出して、労働需要を作り景気を回復させる政策です。この政策によりアメリカ経済は回復しました。
もともとケインズの理論もとに行われたこの政策ですが、これをきっかけに政治家は赤字を増やしていきます。
下記にケインズの理論をまとめています。
5分でわかるケインズの雇用・利子および貨幣の一般理論 | ケインズ経済学の基礎ケインズの理論は、一時的に大規模な公共工事をして、つまり政府は赤字を抱えて景気回復させ、景気が軌道に乗ったら増税をして、赤字分をまかなえばいいと言う理論でした。
しかし、そううまくは行きませんでした。国民は、せっかく景気が良いのに、それをくじくような増税施策は望みません。政治家も国民の意見を聞かないと選挙で当選しませんから、結局大規模な公共工事を続けました。そしてどんどん赤字が増えていくことになります。
つまり、政府は独占的な権利を持っているあまり、上記の問題が生まれているわけです。
単一の通貨にすることで、取引が円滑になるというメリットはありますが、それ以上に、デメリットが大きすぎるとハイエクは主張します。
まとめ
ハイエクの貨幣発行自由化論についてまとめました。
新自由主義は、人々に選択する自由を与えるべきだという思想が根本にあります。
例えば、国が政治を行うより、地方が権限を持っていた方が良いとしています。国は嫌でも出て行けませんが、地方であれば、嫌なら出ていくことができるからです。アメリカが州によって法律が異なるのも、もともと新自由主義の思想が根強いからです。
通貨についても同様で人々が好きな通貨を選べることこそが、人々にもマーケットにも良いことなんだと主張することがこの本の本題です。
ビットコインをはじめとする通貨は、ハイエクの思想を体現するものだと言われています。テクノロジーの力で、もしかしたら経済が大きく変わるかもしれません。